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華氏911
 長い2日間でした。とにかく印象深い2日間でした。

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 2004年20日金曜日。名古屋の八事『ポップコーン』に出かけました。オープンマイク『サランサラム詩のあるくちびる』とライブ『PoetsOnTheRoad'04』の合同イベントを見に行きました。駅に行く途中で自転車がパンクしましたが、急いでいたのでパンクしたまま駅まで走り、パンクしたまま駐輪場に停めました。
 かっこよさと仲の良さが目立ったイベントでした。ガチガチのステージではなく、もっとラフで自由な感じ。フリースタイルあり、ユニットでの掛け合いあり。若者らしい徒党っぽさが楽しかったです(って私も若者の筈なんですが)。
 ……レモンさんが私の『ゲルニカを書きながら』を読んでくれたのには驚きました(当サイトで読み、テキストをノートに書き写したんだそうです)。個人サイト開いててよかったな、と強く思いました。

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 閉演後は、そのままポップコーンさんで11時半ぐらいまで飲んでだべってました。先日の『tamatogi』にも来てくださった方ともじっくり話せました。関西の面々の話は(うまく入れそうになかったんで)大人しく聞いてるだけでしたけど。
 12時ごろポップコーンさんを出てからは、まあ……ね。うだうだと。うだうだと。して、翌朝になって帰りました。早朝の名古屋市内を錦(伏見駅より東)から名古屋駅まで歩いて移動したり。40分ぐらいかかってましたね。まあそれもアリです。若いから。そんな日でした。面白かったと言えば面白かったし、サエねぇと言えばそうも言えてしまうでしょう。

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 駅から降り、駐輪場から自転車を押して歩き、商店街で自転車屋を探しました。いまシャッターを開けたばかり、という自転車屋を見つけてパンクを修理してもらいました。
 店主さんがパンク修理をしているあいだ、私はぼけーっと早朝の町商店街を眺めていました。早朝の名古屋市内は、車が少なくて、ビルが朝日で横から照らされてて、作り物じみてました。駅から降りての地元は、ブレザーの学生が通り過ぎて行ったり、野球部のユニフォームを着た少年が通り過ぎて行ったり、老婦人が乳母車を押して通り過ぎて行ったり、平和そのものでした。
 自転車のパンクが直って、お札を渡してお釣りをもらって自転車屋を出ました。店主さんは修理のお代、消費税ぶんまけてくれました。すまんこってす。
 ……それから、家に帰って、寝ました。

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 昼下がりになって目覚めてから、まずスケジュールの整理をしました。本当は『めろめろ』に出す作品の推敲をしなきゃいけなかったんだけど。……バイト先に休日の申請をするために、9月の予定を整理しておかなきゃ、と推敲は後回しにしました。
 あとは、デジカメの画像を整理したり……いろいろ。いつのまにか夜になってました。TVを点けたら『24時間テレビ』がやって……いませんでした。アテネオリンピックの野球、台湾・日本戦が延長してました。

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 夕飯を食べ、着替えて家を出ました。黄色い布地に黒い字で「100% MALT'S DRAFT BEER」と書かれたサントリーモルツのTシャツを着て。私は毎年、24テレビのある日は黄色いTシャツを着て外出することにしています。特に意味はありません。おもしろいからです。
 自意識過剰になっている自分を確認するのもおもしろいですし、私とすれ違うひと全員がにやにや笑いを浮かべる不気味さもたまりません。正しい世界のおちょくり方だと思います。

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 さておき。モルツのTシャツを着て、映画を見に行ってきました。2004年アメリカ映画。マイケル・ムーア監督の『華氏911』です。

 率直な感想を言うと、とても良かったです。風刺めいた、揚げ足取りばっかりのこっすい映画だったらいやだな、と思いつつ入館したんですが、違いました。風刺漫画みたいなじめじめした笑いはありません。カラッとした皮肉がパシーンと飛ぶ感じです。殴るほうも殴られるほうもあんまり痛くなさそうな、バカバカしい笑い。……フリーダイヤルのところは客席全員が声を上げて笑ってました。パートタイマーの警官1人のところも。いやあ、おもしろい。
 この映画の主題は「ブッシュ大統領就任後」です。「イラク戦争」でもなければ「911」でもなければ「戦争で死んだ兵士」でも「その家族」でも「イラク国民」でも「アフガニスタン」でも「民主主義」でもありません。「ブッシュ大統領就任後(のアメリカとアメリカ政府)」を描いています、だから話は「戦争ビジネス」にもなれば「大統領の来歴や親類関係」の話にも「前線の兵士」の話にも「アメリカの片田舎の貧乏」の話にもなる。最初から「戦争反対」や「派兵反対」を唱えている映画ではありません。
 この映画を「ブッシュ大統領批判の映画」と見れば確かにそう見れるでしょうが、これは個人攻撃よりも、もっと広範囲の物事を対象にした映画です。人間の愚かさ・無知・無力さを描いた映画だと言ってもほめ過ぎには当たりません。
 映画の中で、何人かが「神様」と口にします。それはアラーだったりエンジェルだったり違いがあるのですが。……一個人の無力さ、失望感が生々しく現れていて、見ていて辛かったです。

 ところで、政治的・映画的な感想も述べますと。
 誰だったかな、デーブ・スペクターだったか……は「ドキュメンタリーとしてではなくコラムとして見た方がいい。政治的なメッセージはともかく、映画の手法としてはとてもよくできた映画だ」という風に評していました、妥当な総括だと思います。……こんな評論(毎日新聞 MSN-Mainichi INTERACTIVE 甘口辛口新作ガイド『華氏911 情報操作、ブッシュ政権と五十歩百歩では』)もあります。こちらも、妥当な意見だと思います。
 しかし、五十歩百歩なら充分「すごいこと」です。「ドキュメンタリーの映画監督が某政治家とどっこいどっこいの情報操作をしていることが」じゃないですよ。「アメリカ大統領が某映像作家とどっこいどっこいの情報操作をしていることが」すごい。怒り、あきれ、悲しくなってきます。

 とても良く出来た作品です。前述の「笑いの質」も、断片の集め方・並べ方も、音楽のううさん臭さもクリーンヒットしてます。構成も上手です、疲れたころに笑いでほぐしてくれたり、笑った後はシリアスに引き締めなおしたり。押したり引いたり、荒ぶったり静まったり。うまいです。
 あまりに情報量が多く、テンポも速かったので……2時間以上ありましたが、あっというまでした。とても凝縮されているようにも感じましたし、すごく錯綜して混乱しているようにも感じました。多くの人々が次々に出てくる映画でしたから。無理もないです。
 ……もう1回、見に行きたいな。前のほうの席に座ったら、字幕が読みづらかったんですよ、今回。

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 さて、今日の一枚……はお休みです。
 ドキュメンタリーとかワンシチュエーションドラマとかルポルタージュとか、好きなんですよ、私は。……そうそう、書き忘れてましたが。『華氏911』を見て、アル・パチーノが制作した『リチャードを探して』という映画を思い出しました。主観的であることがドキュメンタリーにとって悪いことだとは私は思わないです。主観をさらけ出すことは、真摯さを見せつけることでもあります。問題はそれを自分なりに再解釈できるかどうかです。
 すぐ術中にかかり思考停止してしまう人(すぐ他人に感化されてしまう人)には、何を見せてもプロパガンダとなるでしょう。うたぐり深く裏まで読める人(裏を読むのが好きという凝り性で嫌な性格の人(笑))には、ドキュメンタリーって超楽しいです。
2004-08-22
(c) Mitsuhiko WAKAHARA