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ワラビー餅
「わらびいいい〜もち、わらびいいい〜もち(と言いながら入場)。
『あっ、めずらしいな……すいません。
「おっ。あいよーいらっしゃい。
『これ、4個ください。
「これ?
『はい、これ4つ。
「たぁぁ――。お兄さんワルだねぇ〜。……。はい、四千円だよっ。
『え。……高くないですか。
「だってうちは本物のワラビー使ってるもん。
『えっ……。ワラビー?
「なんだお兄さんワラビー知らないの? カンガルーみたいのでぴょんぴょん跳ねるやつ。ユータイ類。
『知ってますけど?
「そお。そうそれ。だから四千円だよっ。
『……。じゃふつうのわらび餅も4個ください。
「タ――ッ! お兄さんツウだね。食べくらべようってコンタンだね。
『いや……はい。
「ノンタンじゃないよね……はい、四千円だよ。
『じゃ五千円。
「ハイ……ハイおつり。
『はい。
「ところでね。お兄さんを見込んでお兄さんにだけ話すけどね。
『は?
「もっと寄って。大きな声じゃ言えねぇんだ。
『は、はあ。なんですか。
「わらわ餅ってのもあるんだけどね。食べる気ない? 本物のお姫さま使ってるんだけど。
『はあ……いや。
「今しかないんだよ、1個一万円。安いでしょ?
『はあ……どうなんですかね。
「安いんだよ。ほかじゃこんなのどこでもやってないよ。
『いや……いらないです。
「もったいないよお兄さん、もうこんな機会ないよ?
『でも、いいです。
「元お姫さまじゃないよ? さるイギリス伯爵家の本当のお姫さまよ?
『いいです。いらないです。
「19歳ぴちぴちんところを使ってんだどうだよ? ありえないよー。
『いらないです。
「そう? ほんとぉ……お兄さん硬派だねぇ。
『いや、ふつうです。
「ちがうよぉ……お兄さんものの良し悪しがわかるんだ。高けりゃいいってもんじゃねえんだ餅ってのはなぁ。お兄さん若いのにさすが。
『はあ……。
「でももうちょっと遊び方ってのを覚えたほうがいいな。
『じゅうぶん遊んでますけど。
「いやいやいや。まだまだユーモアが足りないよ、硬派もいいけどね、お兄さん時代はいま軟派だよ。軽くてテラテラーってしてて一緒にいて楽しい男性がモテるんだ。
『はあ。
「ね、お兄さん。これあげるこれ。
『なんですか。……なに餅ですか。
「わだべん餅。
『いらないです。
「なに言ってんの。ほんとはこれ1個五十円もするんだよ。
『安ッ。
「たくさん買ってくれたお礼にサービスするから持っていきなさい。
『いらないです。
「まッたそーゆー頭カタイこと言う……そこもお兄さんの魅力だろけどね、このわだべん餅、1日1個食べてみなさい。カターい頭がゲバゲバにやわらかくなるから。
『いらないです。そんな、タダなんて悪いですし。
「じゃーわかった。100個千円で売ろう、なあ。それなら買うだろ。
『はあ……じゃあ4個ください。
「カーッ。どこまでシブいんだお兄さん。ワサビ餅って感じだね。
(c) Mitsuhiko WAKAHARA