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短詩・未詩 未整理12
わたしとAさんは待合室にいた
わたしはなんともなくふと
鳥の死の話をした
そしてそう言えばと
ねこの死の話をした
待合室にはテレビがついていて
ひとの死の話も流れきこえた
 
「いのちはどれもみな同じ」
そうAさんが言った
わたしはコーヒーをすすった
にがくて重苦しい色の
 
わたしはまた鳥の死の話をした
先ほどとはまた別の鳥
わたしが飼っていた鳥の死について
 
Aさんは黙っていた
わたしも黙っていた
しばらくして名前が呼ばれたので
ひとりが席を立った
「いのちはどれもみな同じ」
と言いながら
立ったのがAさんだったか
残ったのがAさんだったか
わたしはいつまでも
黙ったままだった
起きなかったことを 知っている
××が起こらなかった
ということではなくて
起こらなかった
××ということについて知っている
日時と場所と 登場人物まで
 
   *
 
時間が
全速力で進んでいく
雪でできたぼくは
カーブのたびにふた手に分かれる
 
こちらは 暑い夏だ
あちらでは小雨が降っている
だれかが傘をさして
バスから降りていくのが見える
クーラーの効いた図書館で
いやおうなく
夏を感じている
若者の猫背を見ている
羽根はない
あたりまえなのだけれども
羽根はない
 
Tシャツの
汗のあとが
入れ墨のように地図のように迷彩のように
貼り付いていた
消えていった
テレビをつけっ放していた
流れたCMに
おやと思った
 
すきなひとと
きらいなひとの
似ている部分は発見になる
たとえば
劇団ひとりの声 と
グッチ裕三の声 とか
 
どっちが好きでどっちが嫌いかは秘密
鉛筆の芯が折れて
鉛筆削りが手元になくて
鉛筆の芯をつまんで
書いたことがあるなら
わかるかもしれない
 
 きのう僕は夢を見た
 それが夢だと気づいたのは
 目がさめてからだった
 夢の中には少年が出てきた
 少年は僕にひどいことばかり言った
 こんな子は知らない
 おそらくもう会うこともない
 ああこれはやっぱり
 夢だったんだ
 夢だったんだ なるほど
 
眼鏡を割られたことがあるなら
わかるかもしれない
傷つくということ
傷つかないということ
傷ついたふりをするということ
川の重さをはかるには
どうしたらいいんだろうと考えていた
そんなことをする
意味なんてないのに
ただ川は重いのだろうなと
どのぐらい重いんだろうかと
考えていた
子供のころから
今もずっと
 
川はどのくらい重いんだろう
空はどれぐらい軽いんだろう
星はどれくらい遠いんだろう
海はどこまで回っていくんだろう
 
小さなものさしをつなげると
巨大なものさしができる
1メートル
2メートル
まだ言葉が足りない
私のまぶたには塗料が塗られている
 
顔を
両手で覆うと
闇が広がる
そこにはなにも見えない
見えないことしか見えない
 
そしてそのままゆっくりと
まぶたを閉じる
すると闇が
すこしだけ
ほんのすこしだけ明るくなる
ごくほのかに
たしかに
 
私のまぶたには塗料が塗られている
だから夢を見ないのだと思う
そんな夢を見ているのだと思う
閉じられた扉をこじあける力より
閉じられた扉を塗り込める力がほしい
 
もっと全てのイメージを
もっと全てのイメージを
もっと全てのイメージを力強く
夢を見る必要がないくらい
 
目を閉じて飛んでいる鳥を思い浮かべている
60分の1秒ごとにかたちを変える翼がある
晒しもののその秘密が知りたい
奇跡をおこなう側に変わろう
飛ばないものをぶっ飛ばしてやりたい
 
閉じられた扉をこじあける力より
閉じられた扉を塗り込める力がほしい
内側に向かって開かれていく箱に
大きな窓をひとつ作ろう
唇をふさぐ指を立てよう
 
もっと全てのイメージを
もっと全てのイメージを
もっと全てのイメージを力強く
二度と夢を見る必要がないくらい
幸せになる必要がないくらい強く
神様を拾ってしまいそうなくらい計りしれなく
胸のかさぶたが
(比ゆではなく)
風呂あがりになくなっていた
(比ゆではなく)
もう少しここにあってもよかったのに
自分にうろこが生えたみたいで
ザラザラして愉しかったのに
 
一日が終わろうとしている
 
電灯を消すと
かえるの鳴き声が急に大きくなる
(ここは田畑が近いから)
わっしわっしと滝のように聞こえる
(何かをこする音に似ている)
ぼくは目がさえて眠れない
やつらはいつ眠るんだろう
 
宇宙には夜しかないとだれかが言っていた
ぼくなら
夜には宇宙しかないと言う
逃げるゴキブリを
追いかけて追い詰めて叩き潰して
なかなかの仕事だったと思うのだけど
このあと味の悪さはいったいなんだろうね
 
――1匹見たら30匹いると思え
――30匹見たら900匹いると思え
――900匹見たら
 
見ないから
そんなに一度に見ることないから
 
だいじょうぶさ
まゆげはつながっている
空中につながっている
それは宇宙とつながっている
まゆげは世界とつながっている
 
また君がまゆげを見ているとき
私のまゆげは君の視線とつながっている
君の目とつながっている
君の神経ともつながっている
脳味噌までつながっている
まゆげはつながっている
 
だがそんなことはつゆ知らず
あろうことかこのまゆげ
私の皮膚でのたくっている
毛根からメキメキしている
断崖絶壁にそそり立っている
なんとも勇ましい
しかし何をするでもない
神経も通っていない
痛みも温度も感じない
哀れみも情けもないまゆげ
ただつながっているだけ
まゆげつながっているだけ
つながっているだけ
 
ほんとうに無神経な奴です
このまゆげ
(c) Mitsuhiko WAKAHARA