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短詩・未詩 未整理13
気にするな 気にするな
雲は過ぎ行き日は流れる
草は萌え鳥は飛ぶ
奴等はなにも気にしていない
だから気にするな 気にするな
気にしているのはお前だけ
 
するなといっても無駄であろうよ
だからこそ言う 気にするな
我々で最後になったのだ
俺ももうすぐ気にしなくなる
そのときお前だけ気にしているのは辛いよ
ぼくは自分の手のひらを見る
この手に
どのくらいの優しさが詰まっているだろう
 
殴ることを止めるだけで
しゃべることを止めるだけで
ぼくの善は使い果たされてきた
 
   *
 
ある人はぼくの手のひらを見た
そしてきれいな手だと言った
そりゃそうだろう だが
お前に何がわかる
と言いたくなるのを堪えただけで
ぼくの手はまだきれいで
 
相手は上機嫌で
厚かましくて肉ぼったくて
ぼくはその顔に
こぶし大のあざを想像して 消す
わたしは象の墓にいて
そしてわたしは象ではない
たとえばそういった種類のかなしみ
 
墓地が墓地でありすぎる為に
もう誰もその墓所を使おうとしない
たとえばそういった種類のつめたさ
 
感情的な感情
人間的な人間
社会的な社会
美的な美
総合的な総合
静的な静
 
一日が
一日でなかった為に
机上に残るひとつの課題
あるいは夢
 
だれかが象の墓にいて
象牙をみつけて笑っている
その愚劣さ
遠い明るさ
ものすごい奇跡的な確率で
今日の雨に濡れない人もいるんじゃないだろうか
傘なんかささなくても
アーケードなんか歩かなくても
雨粒をよけようとしたわけでも
雨粒がその人をよけたわけでもなくて
 
あんなにたくさんの人がいれば
ものすごい奇跡的な確率で
今日の雨に濡れない人もいるんじゃないだろうか
魔法のような
砂漠のような人も
帽子をかぶりグローブをした
「世の中は無駄な本だらけだ」派と
眼鏡をかけて腕時計をした
「そんなことはない」派の中間で
速記官の僕は
誰の味方にもなれないでいる
 
双方のつばを最も浴びている
これまでに埋めたページは五万を軽く越す
両者の罵声が入り混じっても
僕は全てを聞き分ける
全部をくまなく記していく
 
いったい僕は何を書いているのだろう
 
   *
 
その後に聞いた話では
「世の中は無駄な本だらけだ」派と
「そんなことはない」派は
古本屋で停戦に調印したそうだ
店主のおやじが何かしら言って
とりもってくれたのだろう
世界のふりをした夢と
夢のふりをした世界のあいだで
ほんとうの誰が転がっている
ほんとうの何を見ている
 
鏡の中に顔を浸ける
どうしてこのままずっと
落ちていけないんだろう
 
歌を聞かせて
壊れない歌を
不思議で分解してしまって
ついに直らなかった歌の代わりに
天使が
この町の上空を通りすぎて行く
誰かを裁きに
あるいは救いに
 
天使が
この町の上空を通りすぎて行く
私の祈りの無力さよ
あるいは幸いよ
えんぴつ削りで
えんぴつ以外のものは削れないものか
たとえば燃費とか
予定とか
 
   *
 
箸を削ってみた
おお
これは食べにくい 食べにくいぞ!
動かなくなったブックマークレットを右クリックし
削除を選択して手を止める
一体いつから動かなくなったのか
動かないことに気付かれずに置かれていたのか
こいつはいつ生まれたのか
どこで拾われたのか
本当の名前は何なのか
 
削除して良いかと訊かれて
OKボタンを押す
なにがOKなものか
問われたのはぼくか
昔々ある所にOGさんと大バーサンが居ました。
OGさんは山へしばかれに、大バーサンは川へ選択に行きました。
 
大バーサンは、危うきに近寄らないことを選択したそうです。
 
OGさんは、男の子を生みました。桃太郎と名付けられました。
大バーサンはOGさんに言いました。
「そんな名前は、大名になるか、斬首になるかという人物の名だ」
大バーサンはもっと無難な名前を考えていたのです。
うーん、とちょっと腕組みしてから、OGさんは大バーサンに言いました。
「幼名なんてそんなもんじゃないかな」
 
のちに桃太郎は「日本一」と書かれた恥ずかしいランドセルを背負わされます。
でもそれはまた別の話です。
空に額ぶちを投げて
絵だと絵だと叫ぶような
虚しくて美しくて痛々しいような
昨日になにを言ったものだろう
 
その時には気づかなかった鳥が
写真の隅に混じりこんでいて
彼に恐れられるような目玉でありたかった
畑の真ん中でどうすべきだったろう
 
櫛にからまった抜け毛をひきちぎる
灰皿を歯ブラシでごしごしと洗う
ゴーストの出ているテレビを消す
ハンガーに吊るした背中をながめる
 
名札や勲章をひとつずつ外して
離ればなれの穴が星座を描きだして
正しい眠り方を思い出せそうになる
すごく間違った夢が見られそうに思う
一日券を買って
地下鉄に乗ると
乗客全員が貧乏人に見えてくる
この人々はみな
あんな紙っきれ買わされて
制限されておるのだのう
 
うむ
今日はわたくし
乗り過ごしてもよい
席に座れなくてもよいであるぞ
わがはい一日券ですので
庶民はお先にお急ぎくださいまし
おっほっほざあます
がたこん
がたこん
 
一日券を買って
地下鉄に乗ると
わたしの精神構造の貧しさに気づく
ねえ運転手さん
海までやって頂戴
消しゴムで消すのだが
消えてくれないのだ
そういう文字もあるのだ
消えたとして
跡が残るのだ
ノートに刻まれた私の筆圧
恥ずかしい腕力
しかたがなく焼くのだ
めそめそしながら川原で焼くのだ
たいして香ばしくもない
 
すると警官が通りかかって
なにをしているかと聞くのだ
ノートを焼いていると正直に答えると
なんのノートだと詰め込んでくる
なんのと言われても困ります
その内容から離れるために焼いたんですが
そう答えると
いいからなにが書いてあったんだい
話しなさいと警官は生真面目なのだ
 
消しゴムで消すのだが
消えてくれない文字もあるのだ
過去という二文字か
私という一文字か
今日という
書きかけの羅列か
(c) Mitsuhiko WAKAHARA