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短詩・未詩 未整理19
空を飛べるようになった人は
もう空を飛びたいとは思わないだろう
そのため私は歩いている
地も空ももう自由ではないと
もう自由ではないと
 
薬の数と治療費で
健康を数値として知ることになった
ベッドサイドの時計が
正確に嘘を積み重ねていった
私だけが正確だと名乗りたかった
言ってやれなかった
 
魔法使いを魔法使いと呼んだ人は
もう魔法使いになれないだろう
そのため私は黙っている
飛んだところで歩いたところで
空も地も逃げはしないと
逃げられはしないと
鬼まんじゅうにオニっぽさが足りないと感じたので
とんがりコーンで角をつけてみた
ケチャップで血を描いてもみた
うずらの玉子で目玉も作った
なおかつ漆塗りの重箱に入れてみた
あろうことかそれを木の根元に置いてみた
塩をふって魔よけをし
そばに包丁を突き立ててみた
 
鬼だな
これは鬼だ
オニレベルの鬼まんじゅうだ
ようやくオニらしくなった
鬼すぎて食う気がまったくしない
新しい生物を発明した
これだ
 
爬虫類バラキク科クワガタカブト目サメライオン
 
図鑑に載せるので絵を募集する
10人からまったく違った絵が10個届くのだろうが
いちばんカッコいい奴を使う予定だ
思ったんだけどぼくは
地球の丸さをしらない
本当に丸いのかどうかよくわかっていない
気づいたんだ今日
見たこともないのに信じ込んでたってこと
教えられたことを鵜呑みにしてたってこと
思ったんだけどぼくは
きっと確かめようもないまま死んでいくんだろうな
 
ねえちょっと
なんでもいいんだけど
しってることを話してよ
これだけは確実だっていうようなことをさ
勉強が楽しかったのはどうしてだろう
ぼくはもう多分ね
占い程度じゃめげないと思うな
 
この形の雲があらわれるとこんな天気になりますって
そうかなって聞き流すようにしてはいるけど
きっとみんな腹を立ててるだろうな
自慢話はいいから株価を教えろってさ
たがいに笑顔で感心しあったりして
本当は疲れてるんじゃないかな
 
思ったんだけどぼくは
月がなんなのかよくわかってない
それほど大事なものとも思えない
明日からずっと満月でも気にならない
ぼくの生活は変わらない
ああでも子供にどうしてって聞かれたら
うんちくが語れなくて恥をかくんだろうか
(短くて深い|深くて短い)眠りだったお酒を飲んだ後の((ような)?)
(どこか|いつか|誰か)((すぐ)?)遠くで自分が(喋っ|話し|語っ)ている
そんな夢((のようなもの)?)(を見た|があった)
(それ|…+)はどういう意味ですかと(訊ねられ|聞かれ|きかれ)((て|た)?)
(相手|司会者)に(悪気がないことを|好意で聞かれていることを)知りながら
(それ|…+)は((どういう意味ですかと(は)?){2})聞き返し(た気がする|ていた)
(新しい|古い)映画を一本見た後の(館外|屋外|歩行|気分)ような
終わりが終わった(後|次|時)のような静かな(屠られ方|弔い)だった((ろう)?)
(次に|今度)生まれてくる時は(禁煙|遠慮)なんかしないと誰も言(った|うの)だろう
((初めからしないあるいは\n|その必要すらない\n|そんなことはない\n)?)
誰ももう自分ではないという((の)?)に
世界が(まば|はば)たきする瞬間に(大縄|闇)を飛んで
着地(した|する)場所が(光に溢れています|明るくある)ようにと祈る
それがさも((殴る|蹴る)?)自由であるかのように((地を|時を)?(超えて|越えて)?)
次の縄が同じ縄でありますように(早く|すぐ)(降って|向かって)きませんようにと
(巨大|大き|巨き)なX線レーダー装置に(照射|走査)され((てい)?)ることを発見して
科学者が((また|もう)?)(ひとつ|ひとり)((樹に)?)階段を上る
(行き止まり|先端|突端)に渡す((次の)?)板を試し((ながら)?)
誰(も|か|かが)それを見上げて((笑って|眩しがって|目を細めて)?)いる
(例|たと)えば(月|宇宙)へ送られる(犬|人|宇宙飛行士|ロケット)が(いる|ある)
大砲の中に入(って|れられ)(打ち|射ち|撃ち)出される(人|もの|者)が(いる|ある)
((かつては)?)記念しただろう((一度は誰も)?)
冒険が(他人事|記事)であるうちは(みんな|誰も)勇敢だ((った)?)
(それ|冒険)が(冒険である|行われている)ことに気づかない(ほどに|くらい|ほど)
ぼくに 申し訳なさそうに
――あれは 実話なんですか
と聞いてくるひとの愚かさを
ぼくは 悪いことだと思わない
むしろ嬉しいことだと思ってしまう
 
そしてぼくは得意げに語りだす
――あれはですね 実はですね
いくつかの角度から隅々まで喋る
そして気付く ああこのひとは
ぼくをこんな風に振舞わせたくなかったんだ
でも聞きたかったんだ 知りたかったんだ
だから 申し訳なさそうにしてたんだ
 
解説が終わると
そのひとはいたく感心してぼくを褒めちぎった
ぼくは条件反射で謙遜を連発した
なにが申し訳ないって もうなにもかもが
さっきまで松葉杖の人が座っていた席に座って
感謝のような 緊張のような 動揺をしている
感情をなだめるために
車窓をぼんやり眺めている
どうしてこの席に座ってしまったんだろうと思いながら
そのいらだちは間違っていると知りながら
 
根拠はないけど 古本屋へ行くと
元の持ち主がどんな人だったか
どんな理由でその本がそこにあるかだいたいわかる
ずっと売れていない本が
ずっと売れていない理由も
ほしい本が見つからない理由も
見つかった理由も
 
ひとごみにまぎれて電車から降りて
導線からそれて ベンチに腰を降ろした
いいところにベンチがあってよかったと思いながら
乗降口をぼんやり眺めている
次はあの席にだれが座るのか
すこし見届けたくなってしまって
アイスクリームがいいのか
ソフトクリームがいいのか聞き忘れて
気を利かせたつもりが怒られるはめになっている
いいんだ 食べなくても
じぶんでふたつとも食べるから
 
さいふの小銭をときどき割りふる
これはあしたのバス賃
これは来週の晩酌代
これは週末のレコード代
これは貯金
のこりも貯金
 
募金は しない
反省もしない
 
食べないのか
食べるのか聞き忘れて
穏便に済ませたつもりが怒られるはめになっている
いや要らないんだと思ったからさ
また買ってきましょうか
握手をしたよ
あたたかかったよ 他人の手は
あたりまえだけど
でも僕はそのあたたかさが嫌だった
肉の感触がして
きもちわるかった
なんて言ったら 怒られるかな
 
しかるべきときに
しかるべく金額を躊躇せず
おごってやれる大人になりたかった
嘘じゃない
でも友人に何も言えずに
別れて帰った
友人なのかどうかもわからずに
 
あいさつもしたよ
笑ってたよ たぶん僕のほうが
だれもカメラを持ってなくてよかった
ほんとうによかった
海の水は、
あれはぜんぶ涙なのです。
そう言ってしまっていいものかと、しかし
言ってしまいましょう。
今や堂々としている波は、
あれはぜんぶ涙なのです。
川を流れた、
雲から降った、
世界中から集められた涙なのです。
どうしてそんな話をするかと、
皆さんお思いになりますでしょう。
きのう姉さんが泣いたのでした。
姉さんは泣くのです。
そうなのです、
信じられないことですが姉さんは泣くのです。
空はいつもと変りありませんでしたのに、
つまりいつとも違う空だったのです。
 
夜には星が首を吊る空です。
昼には太陽輪姦される空です。
海の水は、
あれはぜんぶ涙なのです。
さかなたちは涙を泳いでおります、
鯨たちは涙を潮吹きするのです、
遂に取り返しのつかなかったために、
知人の記憶は影が薄れました。
鯨も泣きますでしょうか、
それとも溶けますでしょうか。
わたしの涙を返せといって泣くものだけが、
海と対等に取引きするそうです。
結局 果たされなかった
果たせなかった約束のほとんどは
期限がなく 具体的でもない
最初から保留にされていた
いつか果たせたらいいね だった
だったのだろう
 
風邪をひいている
なつかしい夢を見た
使える状態で 捨てられていた銃を
だれかが拾って ひとをうち殺す
胸から血があふれて 見ると
うたれたのは僕で
うったのも僕で
銃を捨てていったのも 僕だった
 
山積みのメモ用紙から
いちまいの名刺を探す
ここに入れたはずなのに
いくら探してもみつからない
みつかる頃には きっと
転居してしまっている
棒状になって出てくるだろう
マヨネーズは
あれは棒じゃないのだよ
糸なんだよ
マヨネーズの
チューブの中のマヨネーズは
どろどろのマヨネーズに見えるだろうが
あれは糸状の一本のマヨネーズが
すきまなく詰め込まれているのだよ
チューブを押すとそのマヨネーズが
端からにゅるりと出てくるというわけだ
(c) Mitsuhiko WAKAHARA