トップページ ≫ 朗読作 ≫ シチュー
シチュー
こんな寒い日は
どうしてもシチューが食べたくなる
早く帰ろう
家に帰ろう
どうしてこんなところにいるんだろう
まったく馬鹿みたいだ
足を踏まれるために都会へ来ている
糞を踏んだ足が
さらに糞を踏んだ足に踏まれる
 
夕日が夕日に焼かれ
木は木に遮られ
声は声によって届かず
闇の中では闇も見えない
 
ミートボール
ソーセージ
玉ねぎ
グリーンピース
ハートの型で抜いたニンジン
スプンですくって
口に含む
とろり飲み込む
胃に流し込む
 
こんな寒い日は
シチューのために生きている
ぐつぐつと煮込んで
湯気が立っている
早く帰ろう
家に帰ろう
俺にはシチューがあるのに
どうしてハンバーガーなんか食っているんだろう
 
夕日が夕日に焼かれ
木は木に遮られ
声は声によって届かず
闇の中では闇も見えない
体は体ゆえに老い
心は心であるぶん脆い
本心は本心という盾に隠れて
夢は夢と呼べるほど無力だ
 
ブロッコリー
マッシュルーム
鶏肉
猫背のエビ
ベーコン
刻んだパセリ
コーン
クルトン
鍋の中から皿の上へと
すべては絡まって
おいしいシチューになる
おいしいシチューになる
 
こんな寒い日は
どうしてもシチューが食べたくなる
魔法のような幸運を求めてた
迷子になってもお菓子の家があるって
ぼくにもプレゼントがある筈だって
帰りたくない
動きたくない
料理をする気力はない
寝るためだけに帰るなら
このまま凍え死んだ方がましだ
その方がいい
俺は何を言っているんだろう
まったく馬鹿みたいだ
早く明日にならないかなあ
早く未来が来ないかなあ!!!
 
夕日が夕日に焼かれ
木は木に遮られ
声は声によって届かず
闇の中では闇も見えない
体は体ゆえに老い
心は心であるぶん脆い
本心は本心という盾に隠れて
夢は夢と呼べるほど無力だ
人は人を動かしながら生き
暮らしは暮らしに費やされる
言葉は言葉を増やすばかりで
力は力になってはくれない
 
こんな日は
こんな日はどうしてもシチューが食べたくなる
ぐつぐつと煮えた
あたたかいシチューを
熱いシチューを
また馬鹿が何か言ってるよ!!!
どんな味がするよ!!!
鍋の中から皿の上へと
すべては絡まって
おいしいシチューになる
おいしいシチューになる
(c) Mitsuhiko WAKAHARA