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4000億の星の群れ(星一徹の伝説)
#1
 
ある日、星は誕生した。それはひとつの星であった。
 
#2
 
一徹は言った。飛雄馬、あれが巨人の星だ。
 
#3
 
飛雄馬と呼ばれた星は言った。俺がスターだ。
 
#4
 
一徹は怒った。そしてちゃぶ台をひっくり返した。テーブル世界がゾウやカメもろとも吹っ飛んだ。
 
#5
 
ちゃぶ台は星に激突し、星をばらばらに打ち砕いた。ブラックホールが発生し、一徹はその中に吸い込まれた。
 
#6
 
星の破片は、ほとんどが一徹とともにブラックホールに吸い込まれた。しかしごく少数は重力圏を脱して宇宙を漂うこととなった。
 
#7
 
ちゃぶ台はちゃぶ台なりに今後を考えていた。
 
#8
 
星の破片は何憶年も漂い続け、時に衝突してまた砕けた。時には衝突して合体することもあった。星は増えたり減ったりした。その数、約8000億。
 
#9
 
11人いればそれで野球ができるのに、とゾウは思った。
 
#10
 
それはサッカーだろ、まあ野球もできるけれども。とカメは思った。
 
#11
 
負けないで、飛雄馬、と姉はいつまでも見守っていた。見守っていただけで何をすることもなかった。
 
#12
 
誕生した新しい星の中に、星セント・ルイスという連星があった。あっただけである。
 
#13
 
そのほかに誕生した星としては、干しシイタケ、干しあわび、星湖のホッシーなどがある。あるだけである。
 
#14
 
ビッグ・ちゃぶ台バンからおよそ6兆年後、地球という星が誕生した。この地球には、驚くべきことに、自立的に活動し繁殖する有機物が発生した。
 
#15
 
そのひとつを裕木奈江という。現在のことである。
 
#16
 
これを裕木奈江紀という。人類がもっとも栄え、もっとも滅びた年代である。この時の星の数、約42兆6000億。
 
#17
 
このころ、ちゃぶ台は決意した。もう一度世界を担おうと。
 
#18
 
ちゃぶ台はトレーニングに励んだ。腕立て伏せ、スクワット、反復横とび、二足歩行を鍛錬した。人類に学んだのである。
 
#19
 
そのころ一徹はあちら側で若いお姉ちゃんとよろしくやっていた。
 
#20
 
飛雄馬の姉の方はというと、こちらもゾウ使いになって楽しくやっていた。カメは姉使いになってヒシバシやっていた。
 
#21
 
騒々しいながらも、宇宙は平和そのものであった。と思われた。
 
#22
 
しかしある時、耐用年数を迎えた星の大リーグボール養成ギプスが弾け飛んだ。
 
#23
 
ムキムキになった宇宙に毒気づき、あまたの星が自壊し始めた。これをビッグ・大リーグボール養成ギプスバンという。略してセカンドインパクト。
 
#24
 
重力の変化によって星々は8000億にまで減少し、また過酷な宇宙で互いの距離を縮めもした。宇宙は縮小と崩壊に向かい始めたのである。これを便宜上、向井ホッカイロ理論と名づける。
 
#25
 
向井ホッカイロ理論により、いくつもの星やそのかけらがブラックホールに吸い込まれていった。中にはブラックホールにブラックボールが吸い込まれたこともあった。姉、カメ、ゾウ、地球、人類、ケロロ星人、コスモ星丸なども吸い込まれた。
 
#26
 
極限まで縮小した宇宙で最後まで残っていたのはあのちゃぶ台であった。ちゃぶ台は最後まで粘ったのだ。その意気やよし。
 
#27
 
だがちゃぶ台も重力には勝てず、ずるずると引き寄せられ、ついにブラックホールに吸い込まれた。かに見えたが、ぴったりサイズであったちゃぶ台は、きゅぽっ、とブラックホールに蓋をして留まった。
 
#28
 
あちら側では一徹が変容した世界に戸惑っていた。帰ってきた飛雄馬や姉にだらしのないところを見られ、父権を失墜させてしまってもいた。一徹は、苦しまぎれに言った。よく帰ってきた、そしてあれがボクシング世界チャンピオンの星だ。
 
#29
 
亀田父かよ、と姉が鋭いつっこみを入れた。あまりの鋭さに今度は一徹が砕けた。
 
#30
 
この一徹のかけらでできているのが、現在の宇宙である。これをビッグ・一徹脳みそバーン仮説の四条第六項、優子愛子涼子景子町子和美浩子真由美オリンポス宇宙と呼ぶ。通称、姉チョップ宇宙である。
 
#31
 
そして時代は進み、宇宙は今また裕木奈江紀を迎えつつある。ちゃぶ台を欠いた宇宙がサードインパクトを起こすのか否か、学者の間でも見識は分かれている。とんこつ派としょうゆ派の争いである。
 
#32
 
とんこつ派の主張はこうだ。2度あることは3度ある。
 
#33
 
対して、しょうゆ派の主張はこうである。いやチョップ宇宙はこれが1度目なんですけどぉ。
 
#34
 
そしてみそ派が台頭することになるのであるが、みそ派は各地域に分散しており、論陣の足並みは揃っていない。これは学派というよりムーブメントに近いものである、ダダやシュルレアリズムの末期を思わせる、と鴨居七六は書いている。
 
#35
 
なにしろ芸者の言うことである。雅びこのうえない節回しであった。
 
#36
 
てんつくてんつくと宇宙は回っていく。この世は郭町。
 
#37
 
しかしそこにまた新たな一派が誕生し議論を呼んでいる。水道水派である。
 
#38
 
彼らの主張を要約することは難しいが、単純化するとこういうことになる。この宇宙は2度目でも1度目でもない、約7万回目だ。
 
#39
 
現在のところ、彼らの理論を裏付ける証拠は確認されていないが、逆に否定する材料も見つかっていない。
 
#40
 
しかし観測の結果、この宇宙にも星セント・ルイスの存在が確認された。漫才師としてである。
 
#41
 
どうやら世界は確実に寄席化しているらしい、との理解が現在では一般的になりつつある。お代は見てのお帰りということらしい。
 
#42
 
すなわち、代償に会得し何度も笑い吹き飛ばされてきたのがこの宇宙であるという理屈である。嘘だろ。
 
#43
 
悪い冗談である。マイケル・ジョーダンではないのが残念である。
 
#44
 
人によっては、宇宙は消える魔球である、暴走する大リーグボールである、戦争はスポーツである、などと形容する者もいる。
 
#45
 
蛇足ではあるが、蛇に足があったらトカゲである。絶対ホカゲになるんだってばよ。
 
#46
 
それがどうしたと言われても困るのだが、ともあれひとつ確かなことは、ちゃぶ台は今も足腰を鍛え続けているという恐ろしい事実である。
 
#47
 
ちゃぶ台は世界を諦めていないのである。今後の動向が注目される。どうこうせよという訳ではない。むしろずっこんばっこんすべきであろう。
(c) Mitsuhiko WAKAHARA