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嘆きのカラス
 カラスの群れがあった。そのなかであるカラスが呟いた。
「私はなんて汚らわしいんだろう……」
 
 どうしたんだ? と仲間たちはそのカラスを心配した。カラスはボソボソと答えた。
「私なんてくだらない生きものだよ……真っ黒で、すみっこで、人間の食べ残しをあさって命を繋いでる。つまらない……」
 それはみんなそうさ、気にするな。生きていくには仕方のないことだ。仲間はカラスをなだめたが、カラスの声はますます沈む。
「だいたいカラスなんて……高く飛べるわけでもない。良い声で鳴けるわけでもない。見た目も不気味だ……。いったいカラスなんて何のために必要なんだろう……」
 必要とか不必要とかじゃないだろう。我々は我々でいいじゃないか。
「いっつも群れて、そのくせ奪い合ったり横取りしたり争ったりしかしてない。鳥というのは本来もっと美しいものだと思うんだ、最近……」
 何だお前、スズメやヒバリなら清らかだとでも思っているのか。
「カラスよりは綺麗に見えるよ……」
 お前はそんなに我々が嫌いなのか。どこにでも失せろこのカラスの面汚しめ。トンビでもカモメでも、好きな鳥に混ぜて貰えこの馬鹿野郎。
 そのカラスがいつまでもグチグチと呟いているので、仲間たちは苛立ち怒った。お前の言っていることは間違っている。嫌なら出て行け。ギャアギャアと非難を浴びせた。
 
 カラスは、憔悴しきってパサパサと力なく羽ばたき(追われるというより、諦めるように)群れを去った。その後、そのカラスは各地でひどい扱いを受け続け、結局どの鳥にも群れることが出来なかった。極度の心労から、カラスの羽には白いものが目立つようになった。まだ中年なのに、細り、随分と老いて見える。純白のカラスは、今ではもうどんな鳥とも言葉を交わそうとはしない。
(c) Mitsuhiko WAKAHARA