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 ひさびさに「インターネットリバーシ」をやったら、角を三つ取られた上で、勝ちました。角だけ取らせて、その間や中央部は蹂躙したわけです。苦しい勝負でしたが諦めず、逃げているフリをして粘り強く罠を構築。そして最後の数ターン、相手は罠に入る以外の選択肢が残されていない状態に。私は追い上げ、僅差で逆転勝利となりました。
 いやあ、相手の悔しそうな顔が目に浮かぶ一勝でした。ぐわははは、甘いぞ士郎。そんな凡策でこの雄山が倒せると思ったか。

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 昨日、名古屋の『空色曲玉』というオーガニックレストランで開かれている『詩の夕べ』というオープンマイクに行ってきました(ちなみに来月8月は『詩の夕べ』お休みです。夏は夜間営業時間を短縮し早めに閉店するとのことです)。
 行くかどうしようか、すこし悩みました。書かなきゃいけないものもあるし。……でも行って良かったです。やっぱり楽しかった。

 読まれたテキストやリーディング自体は、普段通りのレベルでしたけど(あ、でも久々にお会いした加藤さんのテキストは良かったです。とても)。
 ある姉・弟・弟の三人がいらしてて。自己紹介がとても盛り上がりました。下の弟が姉に「おばあちゃんが『はやく孫の顔が見たい』と言ってた」と爆弾発言したり。「おじいちゃんは自分の若い頃の素行をさておいて、私たちには厳しいことを言うんだ」なんてグチったり。姉が上の弟を「あんたは考えすぎなんだよ」とたしなめたり。それを下の弟が「こないだなんかいきなり怒り出したし」とフォロー台無しにしたり。……見ていて、とても楽しかったです。楽しかったというと不謹慎かな、でも、ほほえましかった。平和な、幸せな風景でした。

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 話は変わりますが。帰りの電車で、印象的な光景を見ました。

 電車はほぼ満員で、私は座席の縁につかまって立ってました。その座席には4歳ぐらいの男の子がいて、バットの形をしたドラゴンズの応援グッズを手にしていました。隣には太った30代中盤の母親が裸足で座席に足を上げている。正面の席にはうつむいたご婦人と、携帯電話をいじり続ける20代後半の男性サラリーマン。
 男の子はとっても無邪気で、バットをカンカン鳴らしたり、窓の外を食い入るように見つめたり、窓枠をかじったり、なめたり、私の顔を見上げたり。……落ち着きの無い子にも見えますが、子供なんてそんなものです。背が低いし視野が狭いから、ハイテンションな時は他人のことなんて意識に入らないんですね。とってもはしゃいでました。
 母親は疲れきっている様子でした。太っていたので、うつむくと薄い夏服がぱつんぱつんに張り、けだるさ、醜さが強調されていました。
 男の子は狭い席を降りたり登ったり。正面に居るサラリーマンは迷惑そうにしつつ、関心は携帯電話にあるようで徹底して無視していました(ちなみに携帯電話は最新機種でした)。男の子は母親にも話しかけます。窓の外のあれが凄い見て、とか、わあ電車が動いた、とか。
 母親はだんだん苛立ってきたらしく、途中の駅で「ああ向こうに(名鉄の)赤い電車が止まっとるね。乗りたきゃ降りれば。ほら降りれば」なんて凄いことをボソッと呟いたりし始めました。子供のバットを取り上げて小突いたり(子供は遊んでくれてるんだと思ったらしく、もう一本あったバットで応戦。サラリーマンがますます不機嫌そうな顔をします)。母親は「うるせえよ」「黙れよ」なんて言ったりします。「黙りなさい」とか「静かにしなさい」ではなく。あからさまに投げやりです。子供にはそんなことは分からないらしく、ひたすら無邪気に、キャッキャと頻繁に体の向きを変えます。

 私は母親に対する嫌悪を感じました。「(サラリーマンには悪いですが)子供がはしゃいでいることはまあ当然として」と。「母親にはもっと処し方があるだろう」と。
 でもそれも私の一方的な見方に過ぎません。母親は本当に疲れていたみたいでしたし。この男の子がポカポカ小突いている母親をいつか憎むようになるか、と考えると、そんなことも無いように思いました。この親子にはちゃんと信頼関係がある。でなきゃ子供はここまで母親に甘えない。

 しばらくして。疲れた母親が、髪を結いなおそうと頭のゴム紐を外しました。そして気まぐれにでしょうか、小突く行為の延長線上でしょうか、子供の頭を鷲掴みすると、男の子の坊ちゃん刈りの一部を結いました。そしてフフフと笑って子供を抱え、膝の上に乗せました。男の子の方は、背中に、母親の胸に体重をかけてニコニコしました。母親の表情から苛立った感じが消え、何かを諦めたような薄い微笑が浮かびました。

 親の罪深さって計り知れないなとよく思うんですが……その罪の中身って家庭によって大きく違うんだろうな、ということを思いました。罪が何で帳消しになり、どういう結果が残るのか、といったことも。

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 さて、今日の一枚です。
 名古屋市、JR千種駅近くの歩道橋からの眺めです。夜10時半ごろだったと思います。それにしても明るいですね、都会は。
 ……都会の風景はあまり好きではありません。景色自体は好きなんですが、いたるところに「人の目」や「作為」を感じるのが気持ち悪いんです。夜景は綺麗だけど、その光が花街の照明だと思うとなんだかげっそりして来ません? そんな感じです。……良く分からない例えですね。すみません。
2004-07-22
(c) Mitsuhiko WAKAHARA