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魔法学校
W あ、先生。
H ああもう帰るんですか。
W 学校にいてもすることないですから。
H あなた部活動してませんでしたっけ。
W してないです。興味をひくようなものがないし。
H 何かした方がいいですよ、学生のあいだしかできませんから。
W 学生だって暇じゃないんですよ。
H 大人より自由時間は多いはずです。面倒くさがらず何でもやってみなさい。
W ……。
H ……どうかしましたか?
W 先生、質問があるんですけど。
H どうぞ。
W 魔法って何ですか。
H え?
W 何で魔法なんか勉強するんですか。
H そんなこと考えてたんですか。
W そんなことって何ですか。
H ごめんなさい。なんで魔法を学ぶのか、ですよね。
W はい。
H 魔法使いになるためです。
W なんで魔法使いにならなきゃいけないんですか?
H ……魔法使いになりたくないんですか?
W いえ魔法は好きです、でもそれは関係ないんです。
H ……なにが問題なんですか?
W だから……どうして人は魔法使いにならなきゃいけないんですか。そもそも魔法って何ですか。本当に必要なんですか。
H もちろん必要です。
W 本当に?
H 魔法が使えると便利でしょう。火を起こすとか。
W ……ライター使ったほうが安全ですよ。
H じゃあ……明日の天気を占ったり。
W 占いより天気予報のほうが当たります。
H ……。
W 魔法って本当に必要ですか?
H あのね。ひとつの魔法も使えないようではこの国で信用されませんよ。
W どうしてですか。
H え?
W 魔法が使えないと何で信用されないんですか。何がいけないんですか。
H あたりまえのことが出来ない人は、当然軽く見られますよ。無気力で根性の無い、無責任な人だと思われます。
W まるで魔法使い以外はまともな人間じゃないみたいな……そんな考え方は厭です。
H そうは言ってないでしょう。
W そう言ってるようにしか聞こえません。魔法って本当に必要なんですか、本当はすごく間違ったことを勉強してるんじゃないですか?
H あなたね、魔法使いになりたくても魔法の勉強ができない人は沢山いるんですよ?
W そういう人たちを食い物にしてるのが魔法使いじゃないんですか?
H いいえ、そうした人たちの代わりにあなたは魔法使いになるんです、自分のためだけじゃありません。誰もが、あなたが立派な魔法使いになって自分達を救ってくれる日を待ってるんです。
W ……。
H あなたは奇跡を起こせるんです。魔法使いになって世界に貢献する義務があるんです。奴隷の娘はお城に住める日を待ってます、羊飼いの男はお母さんの薬を待ってます、砂漠の民は新しいオアシスを、兵士は旅の無事を、車椅子の人は自分の足で歩ける日を待ってます、みんなあなたの魔法を待ってるんです。
W 何を伝説みたいなこと言ってるんですか、いまどきそんな殊勝な魔法使い何処にも居ませんよ!
H じゃああなたがそうなればいいでしょう。
W 自分らの無理を次の世代にやらせようってんですか。そんなの身勝手です!
H 身勝手はあなたでしょう! そんなことみんな分かってるんですよ! 分かったうえで希望を捨てず頑張ってるんです。それを自分ひとりが正しいみたいに言って!
W ……気持ち悪いんですよ先生達の言ってることが。奇跡だの貢献だの……偽善的でなんかの宗教みたいだ。うまく騙されてる気がする……。
H あなたは疑り深くなり過ぎてるだけです。魔法というのはもっと夢のあるものなんですよ。
W ……。
H あなた魔法使いを鬼か魔人みたいに思ってるかもしれないけど。人よりほんの少し努力して、ほんの少し進歩しただけの普通の人なんです。魔法使いはサギ師でもペテン師でもありません。頑張って勉強して、人の助けとなる立派な魔法使いになってください。
W ……。
H 魔法を必要としている人がいる限り、魔法は必要です。いいですね。
W ……はい。
H あまり考え過ぎないように。徐々に分かってくる事もあるんですから。
W ……はい。……もう帰ります。
H ええ。では、またあした。
W さようなら先生。
H さようなら。
W はい。失礼します。
 
W ……。
 
W ……。
 
W ……なってやる。
 
W 大魔法使いになって地上の魔法全部焼き払ってやる!
(c) Mitsuhiko WAKAHARA