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悪へのいざない
『おい、アスガヤだよな。
「おいっす。
『久しぶりだな、どうしてた。
「まあ、元気にしてました。
『まだ学生か?
「うぃす。
『今日、詩の朗読会あるんだ。来いよ。
「詩っすか?
『いいぜー。詩。
「おれいいっす。
『なんでだよ。
「なんでって……。
『おまえ詩しらねえの?
「知ってるす。
『詩、おもしろいぜー。来いよ。
「いいす。
『いいから来いって。俺がいろいろ教えてやるから。
「ありがとうっす、でもいいです。
『大丈夫だって。みんな待ってるぜ。イリヤも来るし。
「でも自分いいす。
『お前なんか詩に偏見とか持ってる?
「はい……いや……。
『言えよ怒らないから。
「詩って怖いじゃないすか。
『べつに怖くなんかねえよ。
「知ってる人で詩をやってる人ってみんなダメになってますよ。
『なってねえよ。アサガヤ俺ダメんなってるように見えるか?
「……なんとも言えねえっす。
『否定しろよそこは。
「すみません。
『いいよ。お前は詩とか書いたことねえの?
「はあ……。
『むかし書いてるとか言ってなかったっけ? 俺お前の詩が聞いてみたいんだよな。
「今日っすか。
『いや今日は座ってるだけでいいから。行こうぜ。
「いいっす。
『おまえ金ないのか?
「い、はい。
『じゃあ今日は俺が持つから。誘ってるの俺だし。
「いいっすそんな。
『遠慮すんな。
「遠慮じゃねえっす。
『詩、好きじゃないのか? ゲームとかチャリとかの方がいいのか?
「いいえ……。
『なんだよハッキリしろや。アセガヤ俺が嫌いなのか?
「嫌いじゃないす。
『迷惑?
「いいえ。
『じゃ何で。
「今日はダメっす。
『何かあんのこれから?
「いえ……ちょっと……。
『ちょっと何?
「いや……。
『言えねえようなことなの?
「は、はい。
『アシガヤ。俺に嘘つくなよ。
「嘘じゃねえっす。
『なめんな、それぐらい分かるんだよ。
「ほんとっす。ちょっと用事があって。
『本当か?
「本当っす。
『じゃあいいよ。今日は俺ひとりで行くわ。……お前いつならいいんだ?
「はあ。
『はあじゃなくて。朗読会は来月もやるからさ。
「はあ。
『別に詩を聞きにじゃなくていいよ。女の子もいるしさ。
「いやおれ今スケいますから。
『あら、そう?
「はい。
『へええー。じゃあ一緒につれて来いよその子も。
「すいません、そいつは詩とか興味ないみたいなんで。
『そういう人こそいっぺん来てみるべきなんだって。
「いや……。
『その子も陰じゃノートに詩を書き溜めてたりするかもよ、お前が知んねえだけで。
「そういう子じゃないんで。そんなことはないと思うんすけど……。
『ふーん。いい子なんだ。
「はい、まあ。
『べつに詩ぃ書いてる子も悪りい子ばっかじゃねえよ。
「わかってるす。
『いいんだけどさ……。
「ういす。
『アソガヤおまえ俺のこと見下してる?
「そんなことないっす。
『いや。まあいいんだよ。悪かったな。
「いいっす。
『じゃな。元気でやれやー。
「はいっす。失礼します。
『おう、こんど詩集つくったら送るから。
(c) Mitsuhiko WAKAHARA