「思い出した。
『……。
「……。
『……何を。
「子供ってさ、早く寝るじゃない。
『……それって思い出すようなこと?
「いや。子供は、家の中で一番先に寝るじゃない。9時とか9時半とか。
『……。
「本当に、みんな寝てるんだろうかって思わなかった?
『……意味がわかんない。
「自分が会うのはさ、起きてる人ばっかりで、寝てる人見たことがなかったから。
『両親ともばたらきだったの?
「うん。なんで?
『あなた起きた時にはみんな起きてたってことでしょ?
「ああ、うん。自分だけ何かの病気で、眠くなるけど、みんなは本当は眠らないんじゃないかって、思った。
『兄弟いなかったの?
「いないよ。いると違うの。
『兄弟が先に寝ればそんなこと考えないでしょ。
「そうかな。……寝たふりかもしれないって、それはそれで、わからないだろう。
『みんな寝るわよ。
「わかってるよ。今は。
『……。
「……。
『……眠るのが、怖かったとか?
「うううん。好きだった。あんまり夢は見れなかったけど。
『思うんだけどさ、テレビでも本でも、人が眠ってるシーンってあったでしょ?
「うん。だからおかしいなって思ってた。
『みんな寝ててあなたも寝るのに、何がおかしいの?
「だって……みんな眠ったら大変なことになるじゃない。
『みんな起きてる方が大変でしょ?
「……。みんな寝てるんだよ。みんな動かないんだよ。記憶にも残らない。その時のこと誰も何も憶えてない。まずいじゃない、みんながいっせいに寝てたら。
『……。
「……。
『何かあったの?
「何が?
『……。
「……。
『やっぱいい。
「……うん。
『……。
「そのころ読んだ本にね、自分で、眠りについて調べてみててさ、子供なりに、本に、書いてあったんだけど。
『……。
「10億人にひとりぐらいの割合で、眠らない人がいるんだってさ。
『思い出したのってそれ?
「いや、これは関連していままた思い出したこと。
『ふうん……10億人にひとり?
「うん。そう書いてあった。
『少な過ぎない?
「え?
『誰でも徹夜ぐらいするわよ。
「いや、徹夜じゃなくて。眠らない、らしい。
『それは……一生眠らない人がいるってこと?
「らしいよ。
『会ったことあるの。そういう人。
「会ってわかるの?
『……。
「……。
『あれみたいね、ほらナポレオンだかビスマルクだか。私は片目ずつ眠るのだ、って。
「……なにそれ?
『名言らしいわよ。
「ふうん……。
『……ねえ、ちゃんと寝てる?
「えっ? ……。もしかして今寝てた?
『起きてたよ。
「だよね。
『そうじゃなくて。ちゃんと毎晩眠れてるの?
「毎晩? ……うん。寝てる。と思う。
『最近見た夢は?
「あなたと話してた。なんか、小学校みたいなとこで。
『あたし?
「うん。ケーキを作ったら、食べられちゃったんだって。
『妹に?
「いや、だから、ケーキに、食べられちゃったんだって、あなたが。作ったら、ケーキに。
『……誰と話してたの?
「あなた。夢の中の。
『食べられちゃってたのに、あたしいたの。
「だって……夢じゃない。
『そっか。そうね……何ケーキだったの?
「え?
『食べた、じゃなくて、食べられた、ケーキ。
「聞かなかった。
『そっかあ……。
「気になるの?
『ならないわよ。変な夢見てるわねえ。
「……ごめん。
『何が?
「なんか怒ってるみたいだから。
『怒ってないよ。
「うん。ごめん。
『……。
「……。
『ちゃんと寝てよ?
「寝てるよ。たぶん。毎晩。
『本当に?
「見に来る?
『なにそれ。寝てる人はそんな返事しないわよ。
「えっ。
『どうしちゃったの?
「もしかして、いま、寝てた?
『……起きてたでしょ?
「そうだよね。
『あたしがケーキに食べられたって話してたじゃない。
「そうだよね?
『ほんと大丈夫なの?
「あなたは、寝てるの?
『それは……いつ?