トップページ ≫ 和歌・短詩 ≫ 短詩・未詩 未整理10
短詩・未詩 未整理10
今年が少ないんだ
マッチで数えたらずいぶん余ったのに
今年がもうたいしてないんだ
売り切れなんだ
大好評なんだ
再販は
ないんだ
 
ちなみに返品も
きかないんだな これが
冬が
ぽたぽたと
部屋の中にしみこんできます
バケツで受けてあるのですが
どうにも溜まりません
「drop out」を
「産み落とされる」と訳した
その点において彼は正しい
 
産み落とされる
彼も
ドロップアウトも
そうでない者も
雨も
雪も
落ち葉も
ドロップアウトも
ドロップアウトも
犬に
わんわん
と言ってみる
 
すると犬が
ごひごひ
と言った
 
『なにそれ』
「おいらには人間の言葉がそう聞こえるんだよ」
『ふーん』
 
わんわん
ごひごひ
南東の
空に予約をつけたのに
雲が盗んで
それで譲って
ネットカフェのキーボードは汚い
正体不明の茶色いほこりがいっぱいつまってる
これをぜんぶ掃除したら
気持ちいいだろうな
 
ふと思ったんだけど
ねえ
ワニの歯糞を食べる鳥
をペットにしたい人
まずワニを飼わなきゃいけないのかなあ
「ちょっとまぶしくなりますよ」
と言って
理容師が
私の目に乗せていたタオルをどけた
 
私は目を閉じたまま
光を感じる
視界に赤や緑の点がにじむ
ここは床屋だ
これは何だろう
私が見ているものは
私は
どこにいるのだろう
 
目を開けると
──まぶしくなりますよ
きっと
そうに違いない
──まぶしくなりますよ…
何に使うんですか?
──転がせ!
あした晴れるかなあ
──転がせ!
こんなの出てきたよ
──転がせ!
マズいねコレ
──転がせ!
愛しています
──転がせ!
笑っちまうだーよ
──転がせ!
忙しくて死にそうです
──転がせ!
テレビ見なくちゃ
──転がせ!
 
──転がせ! 転がせ!
──いいから転がせ!
──どこまでも転がしちまえ!
──転がせ! 転がせ! 転がしちまえ!
かぜをひいた日に
わたしの何かは進むのかもしれない
かぜをひいたときにだけ
わたしはわたしを捨てられるのかもしれない
 
かぜをひいた日に
床屋へ行く
みみのひとつぐらい切られたって
どうということはない
『ビー玉坂』
 
突然ビー玉が見たくなった
どうしてだろう
綺麗だろう
ころころしてるだろう
涼しそうだろう
食べられそうだろう
甘いだろう
忘れられているだろう
 
コップ一杯も持っていたのに
どこへ行ったんだろう
光のなかに
ビー玉が見える
どこまでも転がっていく
無数の
光が
電話の
音量が
小さいので
右耳
に加えて
左耳も
使いたいのだけれど
 
あっくん
くびがまわらない
床に置いたピンポン球が
どこに転がっていくかで
この場所が
どれぐらい
どこへ
傾いているのかがわかる
 
どこまで
どこまでも
転がってゆけ
勢いづけ
ほうり投げてやろう
海まで
親指だけ爪を切り忘れた
このままにしておこう
さいきん月を見ていない
そのままにしておこう
僕は痩せられる
きっと痩せられる
そのままにしておこう
変化し切るには百年かかる
おーい
そっちじゃないー
こっちだこっちー
正面の山頂にいるぞおー
 
そっちの山頂から里へ降りて峰をぐるっと回って谷を抜け雪を掻き分け岩壁を登り洞窟に入り地底湖を無呼吸で潜り抜け吸血コウモリと毒グモに運良く相手されず出口を出て三十万円の通行料を払い二百万円のガイドを雇って三十年越しの記録挑戦に挑んで到達した場所だー
 
はやく助けにきてくれー
低空飛行の緊張感を楽しんでいる
できるだけ死に近い行動をしてみたい
世界はままならないんだってこと
どうしたらうまく説明できるだろ
 
走っていく車の前に飛び出して
ブラウン管の中心で愛を叫ぶ
ぶ男のドラマがあったっけ
 
命を賭ける台はどこにでもあって
危険じゃない場所なんてどこにもない
なるようになるのが世界だってこと
予防線じゃなくて証明できるかな
ボールペンの「ペ」の字に
緊張感がなくてやだなと思ったので
『ボールン』
と書いてみた。
 
ますます緊張感がなくなった。
(やあ! ボクぼーるん!)
(これでもメルボルン出身さ!)
まーた困ったものを誕生させちまったなあ。
指輪がみつからないので
指で輪をつくってみたけど
なんの解決にもならない
うん
 
きれいな指輪だ
井戸端のおばちゃん1635人をかきわけて
オアシスの井戸へ
水をくみにいく
見ない顔ねと呼び止められたけど
私は無口
 
これから水がめを抱いて
砂漠を10キロ歩いて帰らなければならない
(c) Mitsuhiko WAKAHARA