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短詩・未詩 未整理16
『おはよう、地獄の戦士たち』
 
もっとみんなが傷つけばいいな
何日も布団の中で過ごさなきゃならなくなるくらい
コップをつかむ力すら出なくなるくらい
そしてもっと憎しみあえばいいのにな
どうして自分がこんな目にあうんだと言って
誰のせいなのか見当をつけて言いがかりをして悪者を作って
無言電話かけて動物の死骸を送りつけたりして
不眠症にでもなんにでもしあえばいいのにな
相手を絶対に許さなければいいのにな
もっと恨みあえばいいのにな
あんな奴いなければいいと願ったらいいのに
本気で誰かの死を祈ればいいのに
他人を変えようとするとか勝とうとするとか
不幸を祈るとかそんな生やさしいものじゃなくて
ギラギラ光る包丁を握って決意したらいいのにな
殺しあえばいいのにな
そして本当に純真な人だけが残る
なあんてことも起こらないほうがいいな
そんな希望はちりひとつ残さないで
誰もがくまなく劣悪になって
うらぶれた気持ちになって
何故だどうしてだ何がいけなかったんだって
取り返しのつかない気持ちで息絶えたらいいのにな
地獄を定員オーバーにするんだ
こんなシステムはぶち壊しにするんだ
囚人たちが全員みんな
自分は悪くないって言い出すんだ
処刑道具で鬼や悪魔に襲いかかって
罪深い人間が天国へあふれ出して
憤りに血走った目で
聖人たちの喉に剣を突きつけるんだ
誰もこんなの望んじゃいなかったと言って
お前らも同罪だお前らが元凶だと口々に叫んで
全ての神を屠っていくんだ
それから勝利を宣言して
ミッションを負傷を死闘を自慢しあって
散らばっていくんだ
それぞれの家へ
たがいに二度と出会わないことを願いながら
帰るんだ
新しい地球へ
とりあえず俺をお前の友達ということにして
姪ごさんに紹介してくれないか
と彼は言った
俺は今までにいろんな虹を見た
その話をしてやろうと思う
『stand』
 
だいたい君の知っている通りだ
僕が言わなかったことはごくわずか
それすらも勝手に予想されて
ほとんど正解だってんだから恐れいるよ
 
だけど僕が君の言うように
優しいわけじゃなくてただ不安なだけで
愛したことがなくて愛されたいだけだとして
誰でも良かったってことにはならないと思うのだ
 
最初に見たものを母親だと思う小鳥みたいな
遺伝子の馬車じゃなくて傷つく人間で
 
間違えたりうわずったり恥ずかしがったり強がったり
お互い知らない部分がまだ幾らでもあるよ
 
僕の知らない君になって君の知らない僕になって
もしもふたり戦場ではち合わせたとして
僕は君を撃たないだろう どんなに危険でも
 
だいたい今話したことが全てだ
事実でもあり理想でもあって
誰の腕もすりぬけるような話だ
それでもどうしても聞いて貰いたかった
 
もしも僕が君の言うように
傷つけたくないとか傷つきたくないとか
嫌われたくないだけの身勝手な奴だとして
偽善で誰かを引き受けたりはしないと思う
 
何重にもくるまれた迷路の中を日々変化する
僕らの本音はいつか出口を見つけなきゃ駄目だ
 
間違えたりうわずったり恥ずかしがったり強がったり
お互い知らない部分がまだ幾らでもあるよ
 
僕の知らない君になって君の知らない僕になって
もしもふたり戦場ではち合わせたとして
僕は君を撃たないだろう 撃たれるのもいやだ
あしたのかぜのむこうには
かかしがいっぽんたっている
ただしそこにはくびがない
くびはあらしのむこうがわ
 
あしたのかぜのむこうには
あまぐもぬるぬるながれゆく
しかしあしたははれている
あめがくるのはしあさって
 
あしたのかぜのむこうには
てんきよほうのやりなおし
あしたのかぜのむこうには
うみのはるかのひともうけ
 
あしたのかぜのむこうには
たろうがぎゃあぎゃあないている
ただしそこにはななどない
たろうはうまれていちにちめ
『みみず』
 
みみずから みずをとる
みずをとる みずをとる
 
しぼりとる うばいさる
みがのこる みがのこる
 
さあこれがみだ これがみだ
まゆにくるめばまゆみちゃん
さあこれがみだ かくもみだ
かすにつければかすみちゃん
 
みみずから みみをとる
みみをとる みみをとる
 
こそげとる そぎおとす
ずがのこる ずがのこる
 
でもこんなにみみだけどうしよう
きもちがわるいしいらないし
みみみみみみみみみみみみみ
らららららーらら らららららーヘイ
 
かすみちゃん みみあげる
みみかすみみみみかすみちゃん
まゆみちゃん ずをあげる
まゆずみまゆずみまゆずみちゃん
『ジラフ』
 
ジラフに射つぞ
射つぞ 射つぞ
ジフテリア注射
射つぞ 射つぞ
 
おいジラフ
おいジラフ
いま射つぞ
ベロ青い
 
でも射つの辞めて
ジラフをじらす
僕の体から血を抜け
だらだらと赤いばっかりのつまらない奴を抜き取れ
そしてそこへ水銀を流し込め
僕の血管を水銀で満たせ
僕の中をきらきらと流せ
僕の中を冷たく冷やせ
僕をぎらぎらさせろ
僕を凍らせろ
僕を殺せ
赤い奴なんか捨てちまえ
『埴輪とクリスマス』
 
靴下を入れよう
ベッドも
そりも入れておこう
馬も
兵隊も
黄金の畑も入れておこう
男も
女も
お前の王国が
お前についていく
 
夢を見るがいい
光のもと
球を蹴る君の
 
さあ土を盛ろう
しとしとと
世界が喪に服す
 
王を失った喜びで
地上はお祭りだ
祈りましたか
 
祈りました でも無駄でした
そして無駄だということがわかっていて祈ったから
無駄だったときぼくは傷つきませんでした
祈ったのだからと思うためにぼくは祈ったのでした
ぼくは祈ったのだから
祈ったのだから
本当に
 
願いましたか
 
願いました 願っただけでしたが
ぼくはぼくのために願いませんでした
他の人のさいわいを願いました
それもあらゆる種類のさいわいを
あまねく願っただけでした つまり祈っただけでした
ぼくの中にもこんなに善なるものがあるのだと
ただ確認したかったのです
 
望みましたか
 
いいえ望みませんでした
少なくともぼく自身のためには何も
ぼくが座ることでだれかが座れなくなるのなら
ぼくは立っているべきだと思うのです
もしくは早く
その場を去るべきだと
 
安らかですか
 
いいえ でも
ぼくは神様なしでも祈れるつもりです
そんなことを誇りにするのは失礼でしょうか
あなたは きっと
天使か何かなのでしょう
あなたはぼくに 何を祈ってくれますか
今日を静かにするために
できれば
何も思念しないでいただきたい
みんなみんなロシア人なのさ
全ての道はローマに繋がるなんてのはうそさ
人類の起源はアフリカなんてのもうそさ
みんなみんなロシア人なのさ
 
田中さんはタナカコフなのさ
飯田さんはイイダスキーなのさ
大谷さんはオオタニコフなのさ
茶畠さんはチャバタベクなのさ
 
みんなみんなロシアなのさロシア人なのさ
なにしろ北半球はいま真冬
禁煙しよう
そしてそのことで嫌な奴にならないようにしよう
煙草や煙草飲みを憎まないで
さげすまないで憐れまないで禁煙しよう
 
誰が煙草を吸っていても平気でいよう
懐かしさに立ち止まるなんてやめよう
かつて当たり前だったことが
当たり前でなくなってしまったなんて思うのはよそう
 
遺書に書いておこう
ひつぎにPeaceを入れてくれと
それで「おじいちゃん煙草吸ってたっけ?」
なんて言われよう
 
禁煙しよう
来年から
たぶん できれば 可能なら
(c) Mitsuhiko WAKAHARA