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短詩・未詩 未整理18
生きてる人間の本は読まないという奴がいて
それ聞いてどう思うと意見を求められた
そんなの自由だと言ってしまえば良かったんだろう
でも僕は知人を亡くしたばかりだった
 
春がもし暖かいと言うのなら
どうして人はもう少し優しくならないのだろう
『朝と潮汐』
 
指で硬く握り締めた祈りは
どんどん純粋になっていくように思えて
手を開いた時には何もなかった
爪に残った砂がこぼれた
 
こんなに弱いものが生き残っている世界で
大切なものは次々に変わって
雨で駄目になってしまうのなら
最初から荷物に選ばなければよかった
 
新しい朝を売りつける男が
古い朝を引き取りましょうかと言う
この不幸を捨ててくれるのかと聞くと
いいえ誰かの朝になるんですと言った
 
今日撒く種を袋から出して
次の夢がうまくいきますようにと願った
ひとつずつ名付けてから噛み砕いた
いつか同じ夢を見そうな気がした
こんなものは命じゃないし知性じゃない
本物はどこだ 辞書の中か
愛という言葉の意味を俺はかけらも知らない
陸上に生きる俺は酸素を意識しない
 
ようこそ新品の世界だぜここは
だがしかしビルは建ってるし人も住んでるし歴史があるし
ああ新品なのは明日からだ
明日になればあさってからだ 来年になれば来世紀からだ
 
ぶち抜いてくれねえかなあそこんところをよ
ドリルでもロックでもこの際職歴問わず大募集中だ
この野郎
言葉になんかされやがってどいつもこいつもよ
この野郎 この野郎この野郎
『しんぷるなことり』
 
またあたらしいゆめをみたよ
しんぷるなことりがとまっている
しんぷるなきのしたで
しずかなりんごをかじる
あなたじゃないわたし
 
ちきゅうにはねがはえて
たいようのまわりをとびまわる
うちゅうにかおをかいて
かみさまをなづけてみる
こころがふくらんで
まだたべられるよ
 
ひかりをおとしてきたよ
しろいふくをきてあるきながら
はなをつついてむしをおとす
てのなかみがいつもあたたかい
からだたのなかがいつもあかいよ
 
またあたらしいゆめをみたよ
しんぷるなことりがとまっている
しんぷるなきのえだで
しずかなうみをみあげる
きのうよりもっときのう
『鳥を叶えて下さい』
 
とりをかなえてくたさい
とりをかなえてくたさい
とまこはないている
なせたねとわたしはきく
なせとりたねおまえは
とりてはないというのに
 
とりをかなえてくたさい
まこはかわらすないている
わたしははなてくすくる
まこはふいとかおをそらす
そらしたさきにそらかある
 
まこをかかえあけてまとへにたつ
このままなけたらとうなるとおもう
とりをかなえてくたさい
とりをかなえてくた
まこはほつくりと
ねむつたみたいた
『スクラップ』
 
朝はいつも新しいのに
人はいつも古くなっていく
空は宇宙へつながっているのに
大地は家にしか通っていない
手のぬくもりは貴重だけれど
黙らせるために乱用される
クレヨンで描いてしまうともう
後戻りはできない
戦いは質を変えるだけ
ひとつの疑問は無数の答を産む
間違いは結果としてそう呼ばれる
盗まれたものは落し物じゃない
目立たない奴が逃げると笑われるが
目立つ奴が逃げると全員が逃げる
羽があるなら背中から射っていい
償える罪なら罪ですらない
分からないことが分かってくると
毎日は分からないことだらけになる
手に入るものは目にできず
目に見えるものは言葉にできない
語り尽くされることで謎は死んでいく
他人と同じ祈り方はいけない
信仰は孤独であればあるほどよい
一度許されたものはもう許されない
駆逐されたものはもう殺されない
行ってしまった風は受けとめたぶんだけ
次のどこかで正直にひねくれる
名づけることで責任は終わる
終わることで空白が生まれる
嘘は単体で矛盾しない
飲み続ける限り杯はあふれない
呪文を口にしてはならない
誠実であることほど不誠実なことはない
生者が天国を建設し続ける
切り取られた部分ではなく
切り取られなかった部分が記録になる
朝は毎日新しいので
僕はその新しさに賭ける
そしてすぐに反省する
ありふれた奇跡に
期待してはいけない
 
見覚えのない町で
おまえの家
と書かれた標識に立ち止まる
見てはならないものを
見てしまったのだと思う
 
どうして核爆弾を持たないのですかと
だれか僕に訊かないのだろうか
太陽があればいいという顔をして
みんな二流のテロリストになっていく
朝食を食べながら
いつも
なにか思い出せそうな気がするのは
あまりに多くのものを
忘れてしまった反動だろう
 
今朝見た夢の中でぼくは
若くも年寄りでもなく
しあわせでも不幸でもなく
裕福でも貧相でもなかった
ただ
名前だけが違っていた
 
朝いつもの電車に乗って
いつもの職場へ向かう
やっぱりなにか忘れている気がする
なにか思い出せそうな気がするのは
田んぼに飛び込んだのはいつだったのか
鏡に身投げしたのは
祈り忘れた時か
初めて自首した日か
内ポケットのイニシャルを
必死になって解き落とした年の暮れか
 
基地が近いんでな
ここは
天国と地獄を選べるのさ
決めたら電車に乗るんだよ
時間ばかりドクドク流れやがってよ
各駅なのに誰も追いつけない
 
百円ライターのシールをよう
丁寧に剥がして濡れ雑巾でふく奴だよお前は
美しくなる方向を間違ってるな
清らかであろうとする時点で不潔だ
シンプルを好む時点でカオスさ
 
降りた駅も無人駅だ
なあ
柵ひとつ飛び越えりゃ
カネなんて要らねんだよ
落し物の傘でもなあ
上半身だけは守れんだよ
 
警笛が鳴ったのはどの授業だったか
膝をやられたのは
歯で開けたのは
充足したのはあれ以来か
祈り忘れたんじゃない
祈る必要はなかったんだ
私立きらめき高校にある
伝説の樹は
もみか
松か
クスノキか
スギか
メタセコイアか
トリネコか
マンドラゴラか
何だ
 
気になるから
調べに行くだけだ
なんだその目は
べ 別に
期待なんかしてないんだからね!
(c) Mitsuhiko WAKAHARA