トップページ ≫ 和歌・短詩 ≫ 短詩・未詩 未整理20
短詩・未詩 未整理20
『妊婦のロボ子さん』
 
お見舞いにきました
と言うと
病気でもないのにお見舞いはやめて
と言うので
じゃあ面会にきました
と言うと
被疑者じゃないのよ面会はやめて
と言うので
じゃあ調子を見にきました
と言うと
自分の調子ぐらい自分で見れるわ
と言うので
じゃあメンテナンスにきました
と言うと
技師でもないのにメンテしないで
と言うので
とにかくアクセスしにきました
と言うと
そんな権限与えてないでしょ
と言うので
ただ眺めにきました
と言うと
面白くないわよそれ
と言うので
まあ顔を見せにきました
と言うと
どの素子に?
と言うので
とりあえずおめでとうございます
と言うと
伝えとくわ
と言って消えた
どうして自分は幸せじゃないんだろうって
考えてみたことはあるかい
きみがそんな風に考えてしまうからさって
突き落とすようなことを平気で言うなよ
 
インターネットは顔が見えないなんて嘘だ
ぼくは回線越しに何人もの死を知った
手は伸ばせなくても言葉は吐ける
顔はあった名前がなかっただけだ
 
どうして人間は醜いんだろうって
考えてみたことはあるかい
そんな風に考えてしまうからさって
そのしてやったりな笑顔をとりあえずやめろよ
 
もし神様がいるならなんて考えたくはない
そんな発想はしちゃいけないだけど
もし神様がいるとしたらなぜそいつは
隣人になってきみをぼくを愛してくれなかったんだろう
 
どうして誰も助けてくれなかったのかって
考えてみたことはあるかい
もう助けようがなかったんじゃないかって
助けようとしてくれるだけで助かったんだよあの時は
ふたりの人に
同時に感謝しようとして
うまくできなくて
やめてしまった手紙がある
自分のずるさを思うのはそういう時だ
 
ちょっと前にね
手をにぎってくれた人がいてね
どうして私なんかの
手に触れたいんだろうって思った
意味がわからなかった
握手だったんだけどね
 
あなたは人に頼ろうとしないから
素敵だとも
好かれないだろうとも言われた
深く聞き返せばよかったんだろうけど
それも頼るってことだからね
どうすることもできなかったな
 
高校の同級生にね
飼っていた犬が死んで
一週間学校に来なかった子がいた
まったく同時期に
私の猫も死んでたんだけど
あの時ほど自分を
冷酷だと思ったことはなかった
目を閉じて しずかに目を閉じて
右手に水平線を 左手に地平線をからませて
ゆっくりと ほんとうにゆっくりと
両手をぴったりと重ね合わせる
 
目を開くと 世界が
手から飛びたっていくのが見える
『むずかしい散歩道』
 
糞は飼い主が持ち帰ることになっているので
俺は俺の糞を持ち帰らねばならぬ。
『竹山田』
 
竹山田が
女にはおまんこがあって
そりゃあたいそう気持ちがよろしく
果てには子供も産まれるので
素晴らしい存在だ
と得意気に言う
だがおい竹山田
世界中の女が
竹山田のちんぽを受け入れるわけでも
竹山田の子供を産むわけでも
断じてない
だからそんな物言いをするのは止せ
と俺は言う
竹山田はムッとして
そうかいお前は
と言う
そうかいお前は
男だけの世界で暮らせばいいさ
せいぜい二次元の
縞ぱんにでも萌えてりゃいいさ
そしてにんまり笑って
右手のチェリオをあおった
ザけんなデブ
俺が萌えるのは水玉だ
と俺は言い返した
本当はどちらも嫌いじゃないが
この場合反撃できれば何でもよい
竹山田がガッハッハと笑った
俺もカカカと笑った
場が和んだ
言い忘れてたが
竹山田はガリガリの細身だ
なあ竹山田
てめえ早く彼女作れよ
と俺が小突くと
彼女は作るもんじゃない
見つけて
なってもらうもんだ
と顔に似合わんセリフを吐いた
ムカついたのでもう一発小突くと
やめろチェリオがこぼれる
と泣きそうな顔をした
半年振りに会った人から
お前 変わったよ
と言われ
だったら何です
と言ってしまった僕は
たしかに変わったのだろう
 
後輩から
どうして先生は 絵が好きなんですか?
と聞かれた
どうしてあなたは 僕を先生と呼ぶんですか
と言ってやりたかったがこらえた
きっかけになった一枚のことを簡単に話した
 
病院の待合室で
フルネームを二度呼ばれる
立ち上がり出向くと
どの看護士も こわばった姿勢になる
別人じゃないのか?
と意外そうな目をする
そんな顔をされても困る
僕だって
別の人に頼みたかった
 
コインロッカーから荷物を引きずり出し
電車に乗ると周囲から浮く
同じ水槽に飼ってはいけない
魚の種類を思い出す
別れた人からメールを受ける
返す言葉がない
忘れてしまいたいことがある
と彼は言った
その中にはきっと
ぼくも含まれているのだろう
 
 いつか話そう
 ほとぼりが冷めたら
 いつか話そう
 今はまだ何も
 
約束を守るなんて
これも自己満足だろう
ぼくは自分の秘密に
押しつぶされそうだよ
 
 いつか話そう
 ほとぼりが冷めたら
 何もなければ
 今はまだ何も
きのうはあなたの夢を見たよ
おとついはあのこの
あしたはあのひとの夢を見るとおもう
じぶんゆめは見られそうにない
 
あなたのゆめはとてもいい夢だったけれど
それはあなたの夢だから
じぶんは起きていかなきゃならない
さみしかったね ちょっと
 
だれもしらないことだけども
いままで見たいちばん悪い夢と
いちばんいい夢が
二十一世紀になって両方かなっていったよ
はやいものだね
 
夢を見ているとね たまにね
だれにも見られていない夢に入ってしまうことがあるよ
じぶんの夢にしてしまいたくなるけど
それは未来の夢だからね
大人になる前に
迷子になってみたかった
一度でいいから
探される側に立ってみたかった
受付のお姉さんに飴を貰って
普段はけして入れない扉の向こうで
知らない世界と
戻れる場所とを感じてみたかった
 
みんな永遠の子供の話ばかりするけれども
どうして永遠の大人について語らないんだろう
人間の悪い習性をこれ以上見たくないと言って
そう言ってしまった自分が真っ先に嫌だった
俺もそうだよでも仕方ないよとつぶやき返されて
またひとつ厭らしい部分を見せつけられちまった
 
美しいとか面白いとか楽しいとか言うけど結局
見せたい部分と見たい部分の突合せに過ぎないね
スパイが紛れ込んでるって言われれば誰もがきっと
自分の正体がばれたかと不安になるんだろう
 
本物の動物が動物園にいて本物のキリンがサバンナにいて
自慢になるかならないかの違いで満足したくない
嘘もない隠し事もない一瞬に立ち会えたら
話したいこと聞きたいことためらわずに言うよ
 
はじまった陰口に加わって鈍く傷ついて顔だけ笑って
意味もなく頷いて聞き役を演じ切れたかどうか
(c) Mitsuhiko WAKAHARA