女性がだしぬけに
あなたの姉になってあげると言う
すでに俺には姉がいますと答えると
お姉さんは何人いてもいいでしょうと言う
何人も要りませんと告げると
そのお姉さんてそんなにいいお姉さんなのと言う
いいも悪いも知らないが姉なのでと答えると
あたしもいい姉か悪い姉かわからないじゃないと言う
それはそうだがとにかく結構ですと答えながら
俺は相手のペースに飲まれかけている自分を感じる
あなたがなんて思ってるのか知らないけどと女性は言う
でもあなたはあたしの弟だわと言う
何と返したらいいのかわからずしどろもどろになったが
それはまことに勝手だとどうにか告げる
あたしの勝手じゃない神様の勝手よ運命と
女性は得意満面意気揚々としている
あんた俺の姉になってどうするつもりなんだと聞くと
どうもしないわ家族になるだけと言う
とりあえずいい姉だからCD傷つけたりはしないわよと笑う
俺のCD借りるだけなら姉じゃなくてもいいだろうと怒ると
たとえ話しただけでしょとさらりと言う
思わずムキになった自分が恥かしくなったが
ここで適当に認めてしまうと後が恐ろしい気がしてくる
ひとまず話を変えていこうと考え
あんた何で俺に執着するんだと言うと女性は
だって姉ですからと胸を張った
いやあんた俺の姉じゃないだろと言うと
姉の何たるかを男のあなたに語る資格があるのと言う
俺はもう自分で自分が嫌になって来る
本物のお姉助けてくれとさえ思う
姉ってそもそも何なんだ
女性のあんたなら語れるんだろと俺はやけっぱちに言う
弟より先に生まれた女の人ですと女性が答える
それなら母だっておばあちゃんだってそうだろと言うと
失礼ねあたしそんなに歳くってないわと言う
いやそもそもあんた俺と血が繋がってないと言うと
血が繋がっていない姉弟もありますときっぱり言う
思わぬ返答に俺はひるむ
いったい何をたくらんでるんだお前は
と怒鳴った俺はもう完全に平常心を失っている
まあ聞きなさい弟よと女性は真顔で言う
なりたくなくても姉弟になってる姉弟もあるでしょ
でもあたしは望んであなたの姉になったのよ
素晴らしいことだと思わないと言う
いやお前はよくても俺が嫌なんだわかれこのと俺は言う
姉さん悲しいわと女性は顔をしかめる
母さんたちには言わないでおくからよく考えてみてと言う
ふざけるな何処の母さんだお前のか俺のか誰だと俺は
自分が何を喋っているのかわけがわからなくなっている
何言ってるのあたしたちの母さんよと女性が言う
何を言っているのかこっちが聞きたいと俺は心底思う
思ったままをそのまま怒鳴る
そうねそれもそうねと女性が呟く
まずは母さんから決めるべきだったかしらとほほ笑む
俺には何が何だか状況が理解できない
そうだあたしは十三歳であなたを生んだんだけど
母親が世間体を考えて自分の子供ということにした
っていうことにしましょうと女性が目を輝かせて言う
そんな複雑な家庭は嫌だと俺がわめくと
辛いだろうけどグレちゃだめよ乗り越えてと女性は言う
お前は俺の何なのだと俺は愚問を口にする
姉さんよと女性は当前の答えをする
ええい俺はあんたの弟でも子供でもないと俺は言う
そうだその複雑な事情の弟はもういないのだ
バイク事故かヤクザ抗争か何かでこの世を去ったのだ
あんたの前にいる俺はそいつと雰囲気が似てるだけの別人だと言い放つ
そんなはずないあなたはあたしの弟よと女性は戸惑っている
別人だお前の弟はお前の心の中にしかいないんだと俺は言う
悪いがそういうことだと言いつつ何がそうなのか言ってる俺にもわからない
そうねそうだったわねと女性はほうけた顔をしている
あんまり似てたものだからごめんなさいと目を潤ませている
あなたはあたしの弟そっくりなの
弟がもし元気でいたらこんな姿になってただろうなって
ねえ一回だけあたしを姉さんって呼んでもらえないかしらと言う
駄目だもうどうにもならねえ畜生
畜生助けてくれ本物のお姉今すぐ来てこいつを何とかしてくれ