シチューを煮込む鍋のとなりで
牛が熱心に腕立て伏せをしている
ぼくは牛に近づいて
両腕を切り落とす
そして二本とも鍋に放り込む
牛がうらめしそうな目でぼくを見る
こちらもギッと睨み返すと
牛はふてくされて スクワットを始める
フンフンと言いながら汗だくになっていく
その頃あいを見て ぼくは
背後から牛を蹴り倒し
両足を切り取って やはり鍋に入れる
牛がまたもうらめしそうな目で ぼくを見る
ぼくは黙々と鍋をかき混ぜる
牛が牛語でひとこと悪態をつく
なにか問題でも とぼくは女王牛語で呟く
牛が顔を赤らめる
のそのそと 今度は背筋をはじめる
見逃すわけにはいかない
ぼくは牛に馬乗りになり
背をこそげ落としかき集め 鍋にたたき込む
だんだん息が合ってきたようだねとぼくは思う
牛が もうやめてくれ といった目でこっちを見ている
お互いの仕事をしましょう とぼくは古代牛語で言う
牛はぶるぶる震えながら
きわめて控えめに おそるおそる腹筋をはじめる
そうだよ とぼくは牛をほめる
ほめながら牛の腹をザクザク刺す
切っては切っては鍋に投げ入れる
牛は歯をむき出しにし
鼻息を荒くして怒っている
鼻の穴がぺこぺこ開いたり閉じたりしている
どう見ても笑いをかみ殺しているようにしか見えない
ぼくは牛のくちびるを裂き舌を抜く
尾と骨と首だけになった牛がばたばたと暴れる
暴れた部分をさらに切る
どっさり得られた肉塊を掲げてぼくは
これも鍋に入れるよ と標準牛語で牛に言う
牛はぜえぜえと息をしているだけで 何も言わない
ぼくは掲げていた肉塊を
かたわらのゴミ箱に捨てる
牛が NOOoooooouuu! と絶叫する
ぼくは笑ってゴミ箱を逆さにし
肉塊を鍋に流す
牛があえぎながら あのそれで 次は と言う
次はない とぼくは笑ったまま答える
ドナドナを口ずさみながら鍋をかき混ぜる
社交ダンスのようにくるくるくるくる
ドナドナ・ドーナー・ドーナーの部分を
この牛の名前にすることも忘れない
牛がしくしくと泣き出す
どうして牛に生んだんですお母さん と呟いてこと切れる
鍋はぐつぐつとうまそうな音をあげている
うんうんとぼくは頷く
牛が完全にくたばるのを待って
ぼくは鍋の火を止める
あつあつの鍋をひっつかみ
窓の外にぶち撒ける