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アヒルとトンボ
 ある日トンボが木にとまり、池のアヒルに言った。
「鳥の仲間はみんな飛べるのに、きみは飛べないんだねえ。ああかわいそうに」
 
 アヒルは言った。
「それなら君だってそうだろう。小さいころは飛べなかったはずだ。飛ぶ必要がないから飛ばないだけだ。かわいそうだとか言わないでくれ」
 
 トンボは言った。
「じゃあ、きみが草に停まれないのも、空中停止できないのも、きみにはそんなこと必要ないからなんだね」
 
 アヒルはきょとんとした。
「トンボは空中に止まっていられるのかい?知らなかった。すごいんだな」
 
 トンボは笑いながら言った。
「なんだそんなことも知らないのかい」
 
 アヒルはトンボをじっと見つめた。
「ねえ、やって見せてくれよ」
 
 トンボはアヒルの目の中に、わずかな羨望の色が浮かぶのを見た。
「いいぜ。ほらっ」
 トンボはサッと木から離れ、宙に停止してみせた。
 
 アヒルは眉をひそめた。
「よく見えないよ。ここからは遠いし。もしかしたら、細い糸かなんかにつかまってるだけなんじゃないのかい」
 
 トンボはかちんときた。
「じゃあとくと見てくれよ。どうだい」
 すいっとアヒルの眼前に空中停止した。
「すごいだろ」
 
 アヒルはトンボをくちばしで捕らえた。
(c) Mitsuhiko WAKAHARA