ある町に、たいせつ太郎が生まれた。なんでも大切にする。
たいせつ太郎は約束を必ず守った。人との関係が壊れることを恐れていた。たいせつ太郎は動物や木々をそっと扱った。自分が相手を傷つけてしまう事を恐れていた。たいせつ太郎はひとつの道具を長く使った。ひとつひとつの思い出を大事にしていた。
たいせつ太郎は、自分は幸せだと思った。自分が多くを大切にしたぶん、守られたものがあり、自分も周りから大切にされているのだと思った。
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たいせつ太郎は次第に人々に好かれていった。頼みごとを決して断らず、なにごとにも慎重で、誠実に精一杯やる。たいせつ太郎の評判は広まった。
人々は、だんだんと、他に頼める者がいないようなことばかりたいせつ太郎に頼むようになった。たいせつ太郎は一人一人を大切にした。どんな事でも引き受けた。何度も危険な目にあった。だがいつも、全ての人の顔と名前を忘れることはなかった。
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いつしか、たいせつ太郎の体は弱り病んでいった。
たいせつ太郎はそれでも人々の期待に応えたいと思った。だがもう以前のようには動けない。いずれ評判は失われ、関係も壊れ、大切にしてきたもの全てを失うことになる。たいせつ太郎にはその光景がまざまざと見えた。
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あくる日、たいせつ太郎は町から消えていた。
人々の中の自分の姿が自分自身によって壊されるのを恐れ、たいせつ太郎はひっそりと、人々の前から姿を消したのだった。