めしつかい達と主人がいた。
めしつかい達は主人に重宝され、相応の衣食住と休息を与えられ不満を感じていなかった。主人は主人であり支えるのが当然であると。何の疑問も持っていなかった。
一方の主人も、めしつかい達は家族であり部下であり頼るべきものとして一定の信頼を置いていた。自分が彼らを統率している。自分の果たすべき義務を感じ、屋敷内にもめごとがあった時などは、責任を持ち、つとめてそれを公正に裁いた。
*
あるとき、地域に戦乱が起きた。一帯の主人らは武器を手にとり出陣していった。
そしてそのまま帰らなかった。屋敷や土地は主人の手を離れ、成りあがり者の手に渡ることになった。
*
成りあがり者は、己れの力のみを頼りとし、ほかの全ては手段に過ぎないという考えでこれまでを生き抜いてきていた。できることならば、誰の力も借りず、全てを自分ひとりで成し遂げたいと口にする事が多々あった。
成りあがり者は新しい主人として屋敷に来ると、まず何人かのめしつかいを屋敷から放り出すと宣言した。めしつかい達はこぞって、新しい主人に気に入られようとあれこれとお世辞を使い顔色を伺い始めた。
しばらくして成りあがり者は、自分によく接したかどうかなどは考慮せず、自分に反抗的な者、自分をかつての主人と比べている者、なかなか賢い者を選び屋敷から追放した。成りあがり者の道具として都合のよい者だけが残った。
成りあがり者は残っためしつかい達を酷使した。屋敷を出て行った者達の行っていた仕事に加え、改革と称して新たな仕事をどんどん突き付けた。時間も食料も節約し休日も与えなかった。
この時になってようやく、めしつかい達は自分達は今ドレイなのだと気がついた。屋敷を逃げ出そうとする者が出るたび、成りあがり者はドレイ達全員の食事を減らした。自然とドレイ達はお互いを監視しあうようになった。辛い生活が永遠に続くように思われた。
*
しかし数年ののち、成りあがり者は新しい成りあがり者によって屋敷を追われることになった。この新たな成りあがり者は、かつて屋敷を追われた賢いめしつかいのうちの1人だった。
ドレイ達は、かつての仲間である新たな主人にうったえた。自分達がどんな仕打ちを受けてきたか、かつての主人はどんなに賢君であったか、熱心に語った。
新たな主人は黙って聞いていたが、全て聞き終わると冷ややかに言った。私はそうは思わない、と。お前達は成りあがり者の下でも、かつての主人の下でも、同様にドレイでありモノだったのだ。
だが私はお前達をモノとしては扱わない、とこの主人は言った。同等の人間として扱う。私が屋敷の外で成りあがったように、お前達にも自由に上を目指せるチャンスを与えたい。仕事を成果で判断し、相応の報酬を払い扱いをしよう。愚かに命令のままに動くだけのモノは必要ない。
その言葉に嘘はなく、ドレイ達は使用人として正式に雇われることになった。もうドレイではない。不満があれば屋敷を去る自由もある。がんばれば主人よりも成功することもできるかもしれない。使用人達は未来に希望を抱いた。
*
だが年月が経ち実際に状況を見ると、使用人達は互いの足をひっぱり合い、他をだしぬき、成りあがり者におべっかを使っていた頃と大差がなかった。
賢い者達は屋敷を出ていった。臆病者、日和見、我慢強い者らが屋敷に残り、新しく屋敷に雇われた者にしきたりを教えた。
使用人達は、自分達は自由でもうめしつかいでもドレイでもないと思っていた。報酬も正当に受けていると感じ取っていた。屋敷で自分がうまく立ち回れないなら、それは屋敷のせいでも主人のせいでもなく自分自身のせいなのだと思うようになっていた。
しかしけっきょく屋敷に残っているのは成りあがり者に都合の良いモノ達だけであり、いまだに自分達はドレイであるのだと気付いた者は居なかった。