ある土地にひっそりと、風が吹くと虹色に反射する不思議な池があった。
近隣の人々は、神事の最後にその池に石を投じた。池は石を受け入れささやかに水面を揺らした。人々は、揺れる虹色におもいおもいの未来を見取った。
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この池のある町は、最近人口が増加してきていた。昔からの住民は新たな住民に説明した。
「美しいでしょう」「私たちはこの池に町の幸を願ってきました」
町の整備によって、池のすぐそばには学校が建った。移転者たちは何か迷いがあると、すぐ池に石を投じた。池はそのたびにゆらゆらと輝いた。水面を見つめていると、誰もが穏やかな心持ちになれた。
「ここは神聖な場所なのだ。そんな気軽に投げちゃいかん」
昔からの住民は口うるさく叱った。だが年代が過ぎるにつれて注意するものは減っていった。
池は、町の生活のそばでたゆたっていた。誰の胸にも、池は故郷の風景として親しく刻まれた。人々の成長とともに池はあった。
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いつのまにか、池は観光名所として有名になっていた。看板や露店が立ち並びゴミも目に付く。幹線道路と駐車場が整備され、海外からも人が訪れた。
誰彼となく、札や小銭やいろんなものを投げ込んでいた。池はちかちかと細かく反応しきらめいた。記念にと写真やビデオに収められもした。
つまらないとそっぽを向かれることも、ありがとうありがとうと泣かれることもあった。池は差別せず輝いた。
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池は、自らに投じられる全てを呑み込み続けた。水の底にはこれまで受けた全てが蓄積されている。
いつか池は、土砂とガラクタであふれかえるだろう。その時も私は輝けるのだろうか、と池は思った。
今日も誰かがやってくる。