「ちょっと、そこのあなた」
『なんでしょう?』
「南の国から、この先の北の国へ行かれるつもりですか」
『そうですが?』
「その服で行ったのでは殺されますよ」
『なんですって?』
「南の国ではみなさんそのような赤い服を着ておられるのでしょう?」
『そうです』
「ですが北の国では赤は侮蔑の色なのです」
『ええっ。しかし私の国では赤は無事を祈る幸運の色ですが……』
「いろんな地方がありますのでね。北では礼服は青色と決まっています」
『なるほど……ではどうすればよいのです』
「私も北の国へ行く途中なのですが。私はちゃんと自分用の服を準備し荷に入れています。これです」
『紫色だ』
「左様。これを着ていれば北の国でも南の国にも入れます。しかし……」
『しかし?』
「こんなもの着ていたのではすぐに旅人だとばれてしまいます。それでは商売がうまく行かない」
『なるほど』
「ですから私はもう一着、ちゃんと青い服も持ってきています。ですから私は大丈夫です。……この紫色の服、これはあなたに差し上げましょう」
『よろしいのですか』
「構いません。せいぜい旅人として足元を見られないよう気をつけることですね」
『ええ』
「それから。黄色い服を着ている者には注意するように。西の国の出身者にはひどい奴が多い」
『有難う。分かりました。……ところであなたはどちらのご出身なのですか』
「あなたの眼に見えているとおりの色です。どの土地で産まれようと魂は無色です」