トップページ ≫ 定型詩 ≫ アドバルーン
アドバルーン
ライフルを抱いた兵隊みたいに
命令を待って十年を過ぎた
盾として生きる屈辱を胸に
誰の残飯で空腹を満たす
 
旧式を誇る年齢を前に
今日も脳天のぜんまいをしぼり
何かを怖れて何かにすがって
正確無比たる時計に追われて
 
ことわざ辞典は重く古臭く
苦しんで死んだ曽祖父にも似て
誰かがトドメを刺さなきゃならない
生の悲しみは飼い主を待って
 
暗視スコープを通した世界に
眼だけが輝く獣が憶えた
飢えた咆哮は月面を目指す
まっすぐな顔を天に向けながら
 
夕日の数だけ見捨てた自分の
影の輪郭のおぼろげさが増す
代償について書かないでくれる
新聞が届く朝を楽しみに
 
壊すと楽しい砂山みたいに
無から無を生んで有意義に遊ぶ
両手はいつでも自由を持ってる
遊びごころだとなんで気づかない
 
貰った時間を持て余しながら
休日は無駄に美しく過ぎる
退屈充実ミキサーにかけて
人生もきっとそんな風だろう
 
宙に浮きだした計画を胸に
アドバルーン今日も高々と昇る
まるみを愛してくれそうな空に
太陽と並び称されなくても
(c) Mitsuhiko WAKAHARA